「ライドシェア」解禁を求める声は大きくなるばかりだ。しかし安全の担保についての議論は十分とは思えない。利用者の安全を置き去りにして、何となく「海外と合わせればいい」の空気感だけで解禁に踏み切ってしまう愚は避けるべきだ。
こういう配車サービスに参加する一般ドライバーは稼ぐ意欲は満々だと思うが、資産家ではないだろう。経済的に生活が苦しい人も少なくないかも知れない。そのため実際に解禁された場合、色々とアルバイトを重ねた結果、睡眠不足状態で運転するドライバーも結構出てくるだろう。
タクシー会社の場合には、ドライバーが前夜に深酒をしていないか、アルコール呼気テストを行うし、体調が悪そうなドライバーの顔色を見て、運転を許可しない。しかし(日本型でない)ライドシェアではドライバーの自己判断に任されてしまう。体調が悪かろうが、前夜に深酒しようが、とにかく稼ぐためには運転しようとするだろう。
車両整備についても不安が残る。コスト削減のため整備にカネを掛けないライドシェアドライバーもいそうだ。これまた同様に、「ちょっとぐらい不調があるからと、いちいちクルマを整備に出していたら稼げないじゃないか」という理屈が先に立ちそうだ。
もしかすると自動車保険も最低レベルのものしか入っていないかも知れない。すると人身事故で賠償を求められても「全然払えない」ということもあるかも知れない(この点については、Uberなどの大手配車サービス会社では独自に保険に入っており、利用客が補償を受けられない事態は避けられそうだ)。
大手配車サービス会社の代表たるUber Technologies社は、安全対策として幾つかのポイントを挙げているが、それらの大半は欧米で起きた「ドライバー vs 利用者」の暴力事案に対する予防策だ(その多くは、あまり日本で危惧するイシューではないかも知れない)。
しかしここで挙げたようなドライバーの体調管理や車両整備については特に触れられておらず、唯一あるのは、低評価を受け続けたり事件・事故を起こしたりしたドライバーが排除される仕組みになっていることだ。しかしそれが意味するのは、あくまで事後的な対応であって予防までは無理ということだ。
さて、仮に(日本型でない)ライドシェアが解禁された場合、乗客は配車されてきたドライバーの体調を知ることができるのだろうか。前夜に深酒をしてアルコールが残っている恐れはないのだろうか。ドライバーが入っている保険の内容を事前につぶさに見ることはできるのだろうか。
そもそも日本の乗客がそうしたことを気にしてドライバーや配車サービスを選ぶだろうか。小生はいずれも「まず、ないな」と思わざるを得ない。
この国の利用者は「自分の安全は自分で守る」という感覚が薄く、中央官庁が解禁したサービスについては「国が安全を担保してくれるものだ」と勝手に解釈しがちだ。その反面、いったん事故が連発すれば、途端に「そんな危ないサービスなど止めてしまえ」と極端な議論に走り出しかねない。
したがって、この安全性の担保に関する論点は「自己責任」に押し付けるのではなく解禁前に徹底的に論じるべきだ。その対策をきちんと取らない限り「(日本型でない)ライドシェアは解禁すべきでない」と、どちらかというと規制緩和派であるはずの小生でさえ否定的にならざるを得ない。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/