​モラリティ低下と信用リスク管理

2024.10.09

ライフ・ソーシャル

​モラリティ低下と信用リスク管理

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/支払余力で人柄までは決まらない。とにかくトラブルコストが高くなりすぎた。来る者拒まず、というようなオプティミスティックな20世紀的性善説では、もはやリスク管理として甘すぎる。厳選無き数は、力どころか、地雷でしかない。/

かくして、カネさえ払ってくれれば、だれでもお客、そういう商売がハイリスクになってきている。医は仁術、などと言っても、たまにお世話になる先生で、御高齢と待ち時間の長さを理由に、常連以外の新規の患者は軒並み体よくお引き取りいただいている病院がある。今後は、旅館や学校も、そうならざるをえないだろう。御紹介も無しにどこからともなくやってきた一見さんは、名前や住所なんか聞いたところで、どこのだれだか身元知れずで、なにをしでかすか、わかったものではない。

本来、クレジットカードは、料金後払いの手段などではなく、旅先の一見さんお断りの名店でも、お客の人柄をクレジット会社が厳格な身元調査と信用実績に基づいて保証し、これを使えるようにする、というもの。現代でも、レンタカーやホテルの予約など、事故やドタキャン予防にクレジット番号必須が当然。さらに遡れば、フリーメーソンも、成金だらけ、詐欺師だらけの18世紀ヨーロッパで、他都市での信用を担保する組織だった。日本でも、江戸時代、明治時代には、紹介状持参が当たり前だったし、米国では、現代でも前の職場の上司の推薦状無しに管理職に雇い入れることはまず無い。

繰り返すが、支払余力で人柄までは決まらない。高額を厭わずに払える上客であっても、育ちの悪い成金、甘やかされてきたバーバリアンなお坊ちゃま、お嬢ちゃまほどリスキーな客は無い。身内じゃお山の大将でいられる自営業、自由業、芸能人も、どんなものやら。まして独身フリーターで、なにも失うもののない「無敵の人」は、恐ろしい。かつてのクレジット会社が、有資格定職10年、家族持ち、持ち家、預金残高、銀行取引実績など、守るべきものを内々の審査条件にしてきたのも、こういうことがあればこそ。海外居住でも、一時的でさえ、実際にこういった証明書をいくつも出させられる。

こういう信用情報収集は、じつは昔よりはるかに容易になってきており、すでに国家規模で信用ポイント制をやっている国もあると聞く。町から出る新幹線の切符もマイナカードで承認されないと買えない、なんていう国民管理国家が理想とは思えないが、顧客にしても、従業員にしても、今後は、民間クレジット会社の信用保証が重要になるのはまちがいない。病院や学校でも、病状や成績より人柄、信用。とにかくトラブルコストが高くなりすぎた。たった一人の顧客、たった一人の従業員のわがまま、でたらめで、会社や組織が潰れかねない。来る者拒まず、というようなオプティミスティックな20世紀的性善説では、もはやリスク管理として甘すぎる。厳選無き数は、力どころか、地雷でしかない。


純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元テレビ朝日報道局ブレーン

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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