昨年の10月に「開発購買の新しい流れ」で、開発購買は「やらなければならないが上手くいかない」活動であり、その理由は、意識のギャップ、仕組みのギャップであり、何より「人に頼らざるを得ない」属人性の問題を話しました。 今回はその続きになります。新しい事例や手法が出てきています。
昨年の10月に「開発購買の新しい流れ」で、開発購買は「やらなければならないが上手くいかない」活動であり、その理由は、意識のギャップ、仕組みのギャップであり、何より「人に頼らざるを得ない」属人性の問題を話しました。
https://www.insightnow.jp/article/12493
また、AIの活用によって、従来はキーパーソンの知見・経験でしか対応できなかった活動をサポートできる可能性についても触れました。
今回は、その「可能性」が少しずつ現実のものになりつつある動きを紹介しながら、開発購買の新しい形について、さらに考えを深めていきたいと思います。
前号でAIによるVEVA提案支援については「あまり聞いたことがなく課題も多い」と書きましたが、昨今のAI活用事例で、興味深いユースケースが出てきました。
開発購買先進企業であるトヨタ自動車の事例です。トヨタ自動車は2024年11月にマイクロソフトと共同で「O-Beya(大部屋)」というAIエージェントの発表をしました。
これは、設計・生産技術・購買・サプライヤが一室に集まり情報共有しながら開発を進める「大部屋方式」をAI化したもので、振動・燃費・エンジン・バッテリーなど9つの専門分野に特化したAIエージェントが搭載されており、開発部門のエンジニアが24時間いつでも相談できる環境を実現しています。
その最大の目的は、定年を迎えるベテランエンジニアの「暗黙知」をAIに継承することです。まさに「過去の知見・経験をデータベース化し、AIに学習させる」というアプローチそのものです。
開発購買に直接関係するシステムではないものの、「属人的な技術ノウハウを組織知としてAIに実装する」という発想は、開発購買でのAIユースケースである、VEVAアイデアデータベース化や部品情報基盤の構築と、まったく同じ方向性と言えます。
さらにトヨタは2025年から本格活動を始めている「AREA35」は、開発・生産・販売が一体となった部品種類・仕様削減・適正化を図るもので、これによって工場内に35%の余剰スペースを創出することを目標に掲げています。実際にスマートキーでは部品種類を138→54種類に部品種類を約6割削減し、工場内スペースも約15%削減したなどの成果を上げています。
トヨタ自動車は開発購買と捉えていないかも知れませんが、開発・製造・調達・サプライヤが一体となって部品種類の削減や、設計ノウハウを共有し、開発上流段階からQCDを作り込んでいく―これはまさに開発購買そのものであり、AIや組織横断活動を組み合わせた先進モデルと言えるでしょう。
もう一つ、私が注目している事例があります。マツダと日本製鉄の提携による「共創活動」です。
2024年に発表されたこの取り組みでは、マツダが車1台分の鋼板を集約して日本製鉄に発注し、新車のデザイン段階から両社が要求性能や用いる鋼材を話し合って決める仕組みを作りました。その結果、開発車の鋼材重量を前モデル比10%削減することに成功し、同程度のコスト削減効果も達成しています。
従来、素材サプライヤは仕様が決まってから発注を受けるのが普通でした。しかしマツダは、系列関係のない独立系サプライヤである日本製鉄を、デザイン段階から開発の共創パートナーとして巻き込んだのです。マツダはこれを「焼畑農業」的な発注の見直し、と評しています。毎回競争入札で最安値を取るだけでは、サプライヤとの関係が疲弊し、長期的には自社の調達力を損なうという問題意識です。
従来の方法と異なるポイントは2つあります。
1つ目は「調達単位の変更」です。従来は部品ごとに価格競争による個別発注だったものをクルマ1台分を集約発注する手法へ切り替えました。これによって鉄鋼メーカーが持つ素材の知見をクルマ全体の構造づくりに反映でき、車両全体で最適化が図れたのです。
2つ目は「調達時期の早期化」です。従来はデザイン決定後に鋼材メーカーに開発支援をしてもらっていたものを、デザイン前の商品企画段階へと前倒ししました。それによって集約発注の効果を最大化
できるとともに、手戻りなどの抑制が実現でき、サプライチェーン全体での最適化が図れました。
このような共創活動ですが、私は前回述べた2つのギャップを埋める要素があることに着目しています。
まずは、意識のギャップですが、これは誰と組むかという点で、クリアしています。日本製鉄という系列外であるが、国内トップの鉄鋼メーカーと「共創パートナー」として組む、という段階で、マツダも日本製鉄もこの取組みを成功させる必要があり、バイヤー企業とサプライヤという関係性を超えた共創が実現しています。
もう一点は「仕組みのギャップ」ですが、マツダが開発ロードマップやコスト目標を早期に共有することで、日本製鉄も自社の技術開発をマツダの要求に合わせて計画できるようになる。情報の非対称性を崩したことで共創を可能にしました。
特に、マツダと日本製鉄という連携が従来にない考え方であり、日本製鉄側もマツダが最初にこの構想を持ちかけた際に、半信半疑の反応だったものが、マツダの熱意を伝えると「本気に答えるべき」
という取組みになったと言われています。
このような、新しい開発購買の流れはこの先も広がっていくと考えます。新しい開発購買は、「テクノロジー(AI・データベース)」+「新しいサプライヤとの共創(誰と・どう共創するか戦略的連携)」
によって進化します。
従来の開発購買は、優れた人材がいれば動き、いなければ止まりました。新しい開発購買は、AIが属人的なノウハウを補い、戦略的に選ばれたサプライヤを開発上流に参加させることで、「人に頼らず
仕組みとして機能する」活動に転換しつつあります。
そしてもう一つ付け加えると、この方程式を成り立たせるためには、誰と戦略的に連携するかという点から、調達購買部門の目利き力が欠かせません。また、AI・情報基盤の整備といった従来、調達購買部門が不得意であった領域での仕組み化も必要となってきます。
AI・情報基盤整備の点は、外部コンサルやテクノロジーパートナーの支援や開発部門との連携も必要です。いずれにせよ、これから数年で、この新しい開発購買の形は、一部の先進企業の事例から、より広い製造業の実践へと広がっていくでしょう。
コスト高騰という強い外圧の中で、「コストを設計する」活動に再度、本格的に向き合う時機が、今まさに来ているのです。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。
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