「先進国」経済の天井:EVシフトの失敗

画像: E4S-47:1947年の国産電気自動車

2024.08.03

ライフ・ソーシャル

「先進国」経済の天井:EVシフトの失敗

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/エンジン自動車は、面倒な機械だからこそ、社会をうまく潤してきた。EV車は、たしかに理屈では優れているが、自動車産業に代わる雇用先を確保できないかぎり、「先進国」はエンジン自動車産業という社会の「エンジン」を止めるわけにはいかない。/

構造からすれば、EV車は画期的だ。エンジンが無い。ホイール内にモーターがあるだけ。部品数も少ないから、故障も少なく、メンテナンスが楽。問題はバッテリーだが、これも冷却システムを組み込むことで、猛暑にも対応。量産すれば、リチウムより安全な固体電池も出て来るだろう。冬場のヒーターは電気ストーブ並みに電気を食うが、エンジンという熱源が無いから、夏はクーラーの効きもいい。排熱も少なく、空気の薄い高地でもトラック輸送ができる。

と、良いことばかりのように思うのは、理系バカ。ヨーロッパや米国のEVシフトが失敗した大きな原因は、部品数の少なさ、メンテナンスの楽さ。EVシフトは、既存の自動車メーカー、自動車関連産業の雇用を激減させてしまう。面倒な機械だからこそ、社会を広くうまく潤してきていたのに。逆に、既存の自動車産業の無い後発の中国などにとっては、簡単に製造維持できるEV車は、参入が容易だった。

つまり、EVシフトには、大規模な産業構造の組み直しが必要になる。この社会コスト、というより犠牲が莫大すぎるのだ。先に自動車関連産業に代わる雇用先を育成し確保しないかぎり、ヨーロッパも米国もエンジン自動車という社会の「エンジン」を止めるわけにはいかない。これが「先進国」の経済の天井。

ネットビジネスだ、AIだ、なんだも、しょせんは旧態依然たる広告媒体としてのビジネスモデルでしかない。ほんとうにそれで仕事が効率化されれば、いよいよ雇用が激減するが、実情は、ただ投資として集めたカネを遊び呆けている従業員たちで山分けしていたただけ、という、その化けの皮も剥がれて、むしろITビジネスがリストラの嵐。これでは、自動車関連産業に代わる雇用の受け皿にはなりえない。

アニメ立国だ、観光立国だ、などと、バカなことを言っている連中もいるが、直接経済規模はともかく、経済波及効果において、自動車産業に優るものはいまだにない。波及効果のない産業は、一部が潤っても、社会的にも、産業内でも、経済格差を拡大し、外部不経済(ツケを外に回す)を引き起こすのみで、むしろ国を疲弊させる。長期的には人口減で労働集約産業からの脱皮効率化を図らなければならないのだから、こんな目先の思いつきは、むしろトレンドに逆行している。(昨日まで自動車の製造や整備をしていた人々が、明日からアニメを画いたり、ホテルで接客をしたりできるわけがない。そして、労働余力が無くなれば、アニメも、観光も、質がが落ちて国際競争力を失う。)

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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