​シェア型書店+オンデマンド出版の可能性

2024.05.18

開発秘話

​シェア型書店+オンデマンド出版の可能性

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/きょうび、テレビ局無しにも Youtube 番組は作れる。本も、出版社や取次が無い方が、本当の潜在読者に届くのではないか。とはいえ、漫然とオンデマンド印刷本を並べていても、検索の下方に沈むだけ。出版社に代わって潜在読者に紹介する「営業」が不可欠だ。しかし、それには、著者や中小編集社も、書店棚オーナーも、ムダなまとめ刷り&輸送保管を止めて物理コストを徹底して下げるとともに、自分の見識に賭けてリスクを取ることが求められる。/

著作権問題の根本には、日本の出版業界の大きな変質がある。今日、出版は、大きな投資ビジネス、というより博打だ。編集者が企画する。「著者」は、その人が言うとおりに文字やマンガを起こすだけの下請。それで売れなければ著者のせい、でも売れたら編集者の功績。

さらに、その背景には、日本の書籍流通の古い業態がある。もともと日本の書店は資本的に脆弱で、取次から本を借りて置いて売るが、残りは返本し、売れた分だけを精算するしくみ。中小出版社も似たようなもので、取次に納本した時点で、とりあえず換金できた。ただし、返本されると、現金を返さないといけない。そこで、とりあえずまた新たな本を納品することで、これを相殺。実質的に運転資金を借りっぱなしの状態にあり、この自転車操業を維持するために、売れる当てもなく、とにかく出版計画ありき、出版点数ありきで、ばんばん粗製乱造。そのうえ、十数年来、取次も出版社もパブラインのようなデータ中毒に陥っている。書店に送り込んで返本されても、輸送コストがバカ高い。だから、実売予想冊数しか出版社から引き取らない。それでよけい似たり寄ったりの粗製乱造の出版点数が増える。

ともあれ、テレビ局にいた身の上からすれば、出版業界の連中のデータの読み方は、根本的にまちがっている。番組もただ視聴率が高ければいいというわけではない。実際はその中に今回から見始めた人、先回で見るのを止めた人がいる。つまり、視聴率は、毎回見てくれている基礎視聴者数にインとアウトをプラマイしたもの。だから、たとえ低い視聴率でも、前回より上がっていれば、新規視聴者を獲得したということ。一方、間違えやすいのは、視聴率が下がったとき。それは、その視聴率が低かった回のせいではなく、じつはむしろその前の回に問題があって、それきりで見るのを止めてしまって、今回はもう見なかった人たちがいた、ということ。つまり、視聴率が高かった前回の方こそが基礎視聴者数を毀損したのだ。

同じことが出版業界についても言える。最近の本が売れなかったとしても、それは、その今の本自体が問題なのではなく、以前の本がつまらなかったので、もう最近の本は買わなくなった、書店にも行かなくなった、ということ。つまり、じつはむしろちょっと前の「ベストセラー」にこそ、大きな問題があったことを意味している。評判につられて「ベストセラー」を買ってはみたが、世間で言うほどおもしろくなかった。だから、次にまた同じようなものが出ても、もうそんなものは二度と買わない、そもそも書店にも行かない、という人が増えている。なのに、出版社は、以前の「ベストセラー」と同じような本を追い求め、それを営業力で強引に書店の棚に並べ、自分たちで基礎読者数をどんどん毀損していっている。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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