善き人生:犬儒派・懐疑派・快楽派・ストア派そしてイエス

2024.06.23

ライフ・ソーシャル

善き人生:犬儒派・懐疑派・快楽派・ストア派そしてイエス

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/哲学はただ世界を問うだけではありません。むしろ我々自体が最大の謎です。このことは、アリストテレスからローマ時代に気づかれました。そこでは、我々はどう生きるべきかが問われ、イエスもこの問いを取り上げました。/

「続く前五世紀は、ペルシア戦争、ペリクレスのペンテコンタエティア、ペロポネソス戦争で、ギリシア中心でしたね。ユダヤ人やローマ人はどうでしたか?」

ユダヤ人は自治区になり、ペルシアが任命しユダヤ人総督と世襲の大祭司が統治しました。彼らはエルサレム神殿を再建し、排他的な選民意識を強めましたが、実際は天使や悪魔を伴うペルシアのゾロアスター教の影響を受け、国際交流の発展とともに国際結婚や多神教信者を増加させました。

共和政ローマも拡大を続け、戦争や宥和によって周囲の豪族を取り込みました。こうして彼らはさらに多民族化し、多神教化しました。実際に重歩兵として戦った若者たちの発言力も強まり、共和国は執政官や元老院に加えて民会を設置しました。

「新しいコスモポリタン、世界市民として、彼らはもう国籍や人種、宗教を気にしなくなるでしょうね」


前四世紀の人生哲学

前四世紀のギリシアに話を戻しましょう。イソクラテスとプラトンは、ソクラテスの後継者を自称していましたが、彼らの贅沢な生活はソクラテスとは似ても似つかないものでした。ソクラテスは、衣食住に無頓着で、最低限のものしか持たちませんでした。裕福な商人の息子であるアンティステネスは、彼に従い、すべての財産を放棄し、師匠と同じように質素な生活を実践しました。ソクラテスが処刑された後、イソクラテスやプラトンが立派な学校で富裕層の息子たちを教える一方、アンティステネスは、美徳のみが高貴であると説き、「白犬」と名付けられた公共の運動場キュノサルゲスで説教して、庶民に感銘を与えました。

「彼と比べると、イソクラテスやプラトンは、結局、口先のソフィストと変わらないな」

彼らは犬儒派と呼ばれていました。とくディオゲネスは、文字どおり犬のように棺桶の中で暮らし、アウタルケア、つまり自足を重んじ、どの国にも属さないコスモポリタンと自称ました。

「ああ、アレキサンダー大王が会いに行ったひとか。大王が、望みを聞くと、そこをどけ、日が当たらない、って答えたって」

大王の以前の家庭教師、アリストテレスも、善き人生に関心を持っていました。人間の特徴が知性である以上、犬のような生活は論外。知性を実現することが人間として生きる意義であると彼は考えました。それで、研究生活が最善だ、と主張しました。

「でも、学者ほど役に立たない人もいないと思うけど」

ピュロンは画家として大王の遠征に同行しましたが、大王の死後、帰国して懐疑派を広めました。彼によれば、私たちは真実を知ることはできないので、判断を止めるエポケーが心の平安、アタラクシアを得る唯一の方法です。大王の死後の混乱にうんざりしていた人々は、彼の懐疑派を受け入れました。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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