/政治家や著名人が車内で運転手を罵倒した事件が、録音録画されているだけでも数え切れない。運転手を、車という密室で、カネで言うがままに使えるパートタイム奴隷のように扱う日本人の裏の顔を正さなければ、タクシー不足の根本は解決しない。/
まして、タクシーは密室だ。酔っ払いなどの厄介な客も多い。『月は』のエピソードにも出て来るように、そんな差別や暴言にいちいちまともに取り合うこともなく、受け流すようにもなるだろうが、それでもそれが毎度のこととなれば、メンタルにはキツかろう。きょうび、半島国籍のままでも、むしろ暗黙に優遇される面さえあるようなマスコミを含めて、いろいろ仕事が選べるのに、わざわざ給与も安い、へたをすれば同じ在日同士でも社内の上下差別があるかもしれないタクシーの運転手に新規になりたがる若者は多くあるまい。それで、ひたすら高齢化。だから、いくら在日世襲の経営者にしても、これでは先が見えず、廃業するところも出てきている。
一方、訪日外国人の増大とともに、じつはすでに「白タク」が横行。営業許可を受けていない白い自家用車用ナンバープレートのままで駅や空港、観光地から人を運ぶ違法商売。これも、さまざまな外国人がやっている場合が多いという。言葉がわからないから、傍目には知人の迎えなのか、客引きなのか、判別できない。訪日外国人からすれば、英語も半端な日本の正規タクシーより、ネイティヴで言葉の通じる同胞の方が都合がいい。これを政府は「ライドシェア」と言い換えて、オープンに解禁しようとしている。かつて強固な既得権益となっていた在日タクシー業界も、もとよりもはや需要を賄える運転手数を揃えられないのだから、譲歩するかもしれない。
だが、冷静に考えてみろ。安全性がどうこう以前に、まともなタクシー会社の安価なLPガスの車、その効率的な無線分散配車ですら、もはや採算が合わないのだ。ライドシェアがタクシーと同等料金なら、日本の高額なガソリンや高速道路を使って、シロウトの片手間でペイするわけがない。可能性があるなら、ヒッチハイクの有料版で、もともと自分が行く予定だったところに、ついでに人を乗せて、割り勘にする、という程度のこと。現在の白タクも、それに近い、同一目的地への詰め込みで、むしろ身元の知れる同胞しか乗せていないだろう。
また、タクシー業界が許容しても、事故や事件の際の乗客の安全性の問題から反対する人々もいる。それもさることながら、私はむしろ乗せる側が心配だ。以前、家の近くの住宅地のまんなかで、タクシーの運転手がナイフで刺されて死んでいた。車は、密室だ。あれだけタクシー会社が現在位置を無線その他で把握し、ドライバーシートの裏に鉄板を入れる、催涙ガスやスタンガンを携行する、などの防犯対策をしていても、『自転車泥棒』(1948)のように、乗客側に土地勘があって仲間が待機しているところに引き込まれれば、いいように犯罪に巻き込まれる。
解説
2023.09.01
2023.09.20
2023.09.23
2023.10.28
2023.12.01
2024.01.07
2024.01.11
2024.01.19
2024.02.03
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。