/自然精霊崇拝はもともと西アフリカでも行われていたが、米国南部からブラジルまで広く信じられているブードゥー教は、強烈な死神「サムディ男爵」によってこそ特徴づけられる。それは、白人が滅ぼしたはずの地元のマヤ・アステカ文明を取り込んだ不滅のゾンビだった。/
ブードゥー教は、17世紀に西アフリカから拉致された黒人奴隷によってもたらされた精霊崇拝であり、現在でも米国南部からブラジルに至るカリブ海周辺に多くの信者がいます。しかし、「ブードゥー」という言葉が奇抜な理論を揶揄するように、白人たちはこれを呪術的で不合理なものとして嫌い恐れています。
自然の精霊(「ロワ」)の崇拝は、もともとは西アフリカで行われており、黒人奴隷たちは新大陸でもこれを守り続けました。そこではシンクレティズム(信仰習合)としてカトリックの聖人たちさえも取り込みました。とはいえ、聖霊多神教は世界のどこにでも存在しています。しかし、新世界のブードゥー教は、強烈な死神「サムディ(土曜)男爵」によってこそ特徴づけられます。
サムディ男爵は、地元のマヤ・アステカ文明の「アプッチ」または「ミクトランテクートリ」に由来し、シルクハットに燕尾服という現代的な骸骨の姿で現われます。彼は葉巻とラム酒、放蕩と混乱を愛し、鶏や豚、ヤギの生贄を要求します。彼は人々を冥界へ連れ去る死神であると同時に、幼子などまだ死んではいけない者を死から守る神でもあります。さらに、供物を添えて彼に祈ると、ハロウィンの晩に生者を死者と再会させてくれます。
ブードゥー教の司祭(「オウンガン」)と巫女(「マンボ」)は、さまざまな機会に適切な聖霊を呼び出す儀式を行います。彼らは、地元の強い酒や薬とともにアフリカの熱狂的な太鼓やダンスを使って、人々を酩酊や憑依の狂乱状態に誘導します。一方、魔術師(「ボコール」)は、聖霊たちを悪用し、黒魔術で人々を呪詛します。それは、サムディ男爵の生死のケジメを破り、仇の死体を魂のない「ゾンビ」として起し、奴隷として永遠に搾取することもあります。
白人たちはブードゥー教を恐れました。それは元来のアフリカの信仰よりもはるかに安っぽいものでしたが、彼らが虐待した黒人奴隷たちや彼らが滅ぼしたマヤ・アステカの不滅のゾンビとして、彼らに闇討侵略と大量虐殺の罪を思い出させたからです。実際、1804年、フランス革命の機会を利用し、ブードゥー教の秘密結社が、黒人のハイチ共和国としてフランスから自由と独立を勝ち取りました。
今日、ブードゥー教は、アトラクションやエンターテイメントになるほど洗練されました。対照的に、白人たちは、もはやどの国も追従していないにもかかわらず、いまだに自分たちこそが世界を支配していると信じています。私たちは誰がいまゾンビなのかを考えるべきです。
解説
2023.10.28
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2024.05.01
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。