講談社フェーマススクールズ(KFS)の熱量

2024.03.29

ライフ・ソーシャル

講談社フェーマススクールズ(KFS)の熱量

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/米国 Famous School の教育指導ノウハウを1968年に日本の講談社が買って作ったのが、講談社フェーマススクールズ。その最盛期には、日本だけで一万四千人もの受講生を抱えた。絵本をはじめとして、いまや一大イラストブーム。イラストが単体で作品として画廊に並び、高額で取引される。そのプロたちの中には、元インストラクターや、最後までがんばった「卒業生」は、意外に多い。/

三十代以上の人なら、どこかで目にしたことがあるだろう。講談社などの本や雑誌に、かならずはさまっていたハガキ。イラストコンテスト、だとか言って、下半分に絵を画いて送るだけのもの。あれが無くなって、今年でちょうど十年。

当時、けっこう「詐欺」だ何だとも言われた。いっぺん出したら最後、家まで押しかけてくるほど勧誘が熱烈で、才能があるのにもったいない、と、おだててのせて、百万円を越えるような通信教育コースに申し込ませ、カネが無ければローンまで組ませる。やめようとすると、法外な退学金(「中途退学時清算金」)を取られる。それで裁判沙汰にもなっている。たしかに、ひどい。だが、内容までひどかったのか?

Famous Artists School は、日本のKFSが言うとおり、米国生まれだ。1901年創設のニューヨーク・イラストレーター協会が母体。その辣腕会長アルバート・ドルンが、1948年、通信教育を企画。それで新たにできたのが、この「会社」。著名なイラストレーター、ノーマン・ロックウェルほか、一流のプロ12人が集結して、通信教育のためのカリキュラムや教科書を整備。当初は、イラストとデザインの2コース。おおよそ三年で「修了」する24課から構成され、教科書を読み、課題を作成して提出、これをプロが個別指導。合格すると、次の課に進む。

その後、絵画や漫画のコースも整えられ、また、60年代には、作家学校と写真学校もできた。通信教育のメリットを生かして、英語ながら、海外からも受講が可能。とはいえ、あくまで個人の個別指導なので、最盛期でも全部の学校、全部のコースを合わせても、せいぜい五万人規模。この Famous School が確立した教育指導ノウハウを1968年に日本の講談社の社長、野間省一が買って作ったのが、「講談社フェーマススクールズ」。その最盛期には、日本だけで一万四千人もの受講生を抱えた。

時代背景がわからないと、理解しがたいかもしれない。20世紀、1907年に開発されたT型フォードを嚆矢として、大衆による大衆のための大量生産社会が到来。工員や兵士を仕立てるために、初等義務教育が普及し、大戦直前の40年代にもなると、識字率も劇的に向上。といっても、広範な文化教養が事前に必要なハイカルチャーの文学芸術になんか親しめるわけがない。彼らが暇つぶしに好んだのが、いわゆるパルプフィクションやコミック雑誌。とくにミステリやSFは、作品内で設定が完結しているので、教養がいらない。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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