日本企業は長年の間賃上げに消極的であり続けたが、物価高が進む中、世界の動向には大きく遅ればせながらも、大企業には賃上げの波が起こりつつある。問題は日本経済における雇用の大多数を占める中小企業である。その中小企業が賃上げを実施できるための条件は何かを探ってみよう。
一部の企業はようやくそれに気づいたのだ。そのきっかけが今回の物価高だというのはちょっと情けないが、何もしないよりはずっとましだ。この動きがもっと広がれば日本という社会・市場が少しでも魅力を取り戻すことにつながると期待したい。
でも問題は、国内雇用の大多数を占める中小企業がこの賃上げに追随できるかだ。正直、かなり微妙なところだ。
先ほども触れたように、中小企業は取引先から価格を抑えるようにと要請されることが少なくない。原材料費が上がっても売値はそう簡単に上げられない、つまり価格転嫁しにくい。既にコスト削減が限界に来ているケースが大半だろうから、すると賃上げのための原資を確保するのが難しい。これが、中小企業で働く人の給料が上がらないどころか実質的には長期に下がり続けている、構造的要因だ。
その構造的要因を踏まえ、中小企業が賃上げを実現するには付加価値を確保・拡大する必要が絶対的にある。そのための方策は3つ。すなわち「適正な価格転嫁の実現」「差別化戦略の実行」「生産性の向上」の3つを組み合わせることだ。いずれも簡単ではない。
「適正な価格転嫁の実現」は直近の対策だ。主に大手企業と取引しているB2Bビジネスの場合を想定すると、過去の原価や売価の推移記録をエビデンスとして取引先に示し説得する、地道なやり方しかない。そしてそうした妥当な要請に耳を貸さないたちの悪い大企業取引先を思い切って「切る」一方で、よい取引先との取引を地道に開拓し増やすことで原価率を改善するのが近道だし、王道だ。
中期的な対策ながら、一番重要かつ効果的なのは2つめの「差別化戦略の実行」だ。長年のデフレ下で色々な業界が価格競争に陥ったのは、多くの企業が知恵を使わずに同質的な商品やサービスでの競争に埋没したからだ。特に中小企業はその傾向が強かったと思う。
裏返せば、今後中小企業が最も重要視すべきは、商品・サービスの差別化を図り、自社ブランドの開発を進めるなどで価格決定力を持っていくことだ。これは簡単ではないが、少なくとも個々の会社の頑張りと工夫次第で可能な話だ。そして成功事例はそれなりにあり、継続的に取り組むことで知恵はついてくるという性格の話だ。
3つめの「生産性向上」は、業界によっては短期的にも可能だが大半の中小企業にとっては中長期的な対策で、典型的にはデジタル化、さらにはDX化の推進だ。デジタル化の遅れによって日本の中小企業の労働生産性は大企業のおよそ半分だと言われている。だからデジタル化・DX化を進めなさい、というのが世の評論家や官僚たちの言い分だ。しかし事はそれほど単純じゃない。
社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/