/大学人と言えど、それは、たんに特定科目の研究教育をしているというだけの一職業人。それも、365日、同業者か大学生を相手。専門専修の仕事という意味では、旋盤工やキャベツ農家と変わるところはない。あえて世間に与せず、かといって独善に思い上がることもなく、ただ真理探究に没頭する高踏毅然の自負矜恃を持つことが、いま、あらためて大学人に求められているように思う。/
また、コンサルタント業界にも片足を突っ込んでいた経験からすると、そもそも現代において、だれかに提言してもらわなければならないほど、政治や経営にアイディアが枯渇しているわけではない。むしろアイディアだけなら、腐るほどの蓄積がある。しかし、とにかく現代では既得権と副作用がややこしく絡み合っており、バス停をほんの1センチずらすだけでも大騒ぎになる。政治や経営が諮問したいのは、この厄介な現実のスマートでパレート的(利害関係者全員がWinWin)な解きほぐし方であって、大学人が考えるようなブルーオーシャンの果てなきファンタジーではない。
自分たちがもはや世間のオモチャにすぎないことを客観視できず、学問の自由、学界の権威、などという脅しが通用すると思っている彼らは、紙の王冠、ゴムの剣を振りかざす、まさにカーニバルの「道化王」。したがって、これほど大学と大学人が日本に増大していながらも、①社会的実体験があり、②リアルで豊富な潜在情報網を持ち、かつ、③専門性の限界を知っていて、提言を行い、諮問に答えるにたる大学の国際教養人を、この国で200人も集めて常設機関とする、などというのは、かなり難しいのではないか。
とはいえ、世俗的な衆議院(民会)をチェックする二院制という意味で、いまの屋上屋の参議院が機能しているとも思えないのも事実だ。かといって、商業性や党派性に走って社会の信用を失いつつあるいまのテレビや新聞にも、その機能はもはや期待しえない。積極的な提案機関でないまでも、国政や経済の暴走や逸脱を防ぐチェック者としての温和で中立的な国際教養人の目は必要であり、いま、大学というものは、目先の専門性や実利性を追うだけでなく、政治や企業、社会の消極的監査をなしうるような人格的で良識的な国際教養人を広く養成する役割もあるように思う。そして、政治や経済、マスコミの場で小遣い稼ぎの走狗となることなく、あえて世間に与せず、かといって独善に思い上がることもなく、ただ真理探究に没頭する高踏毅然の自負矜恃を持つことが、いま、あらためて大学人に求められているように思う。
解説
2019.04.02
2020.11.07
2021.08.04
2022.01.04
2022.01.13
2022.02.01
2022.02.22
2022.03.02
2022.04.21
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。