​EUの野望と文明論的妥協の必要性

画像: 1878年の中央アジア

2022.03.02

ライフ・ソーシャル

​EUの野望と文明論的妥協の必要性

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/我々は大きな国際的パワーバランスの有為転変の中に生きている。素朴な理屈で決めつけて、杓子定規な解決を図るのではなく、まったく妥協的に、とりあえず双方の当座の不満を丸め込むようないいかげんで曖昧な提案で、永遠に問題を先送りし続けることが大切だ。/

暴力撲滅! SDGs16は、平和をめざす目標のはずなのだが、日本ではおうおうにこう言い換えられている。水っぽい脳みそが瞬間沸騰してしまう連中には何を言ってもムダなのだろうが、やたら上から目線で、神のように思い上がり、物事の善悪を決めつけたがるのは、それこそ、できそこないの人間の原罪。このボーダレスな国際社会で、軍事力にせよ、経済力にせよ、鉄槌を振り上げれば、結局は、自分の足を潰すだけ。

国際社会は流動的だ。現にそのヘゲモニー(支配権)は、およそ百年単位で、スペイン、オランダ、英仏独、米ソとシフトしてきた。そして、その米ソの時代も、先の20世紀ですでに終わった。この隙に、EUは、ソ連から放り出された旧東欧をアジア・アフリカに代わる新たな植民地として組み込むことで、自分たちの19世紀の栄光を取り戻そうとする時代錯誤の野望を抱いている。

しかし、そんなことをしたところで、価格や性能に関して、中国や東南アジア、イスラム圏が劇的に追い上げてきており、EUには、世界市場で競争力がある商品が無い。つまり、EUは、いまだに西欧に憧れる旧東欧市場くらいしか、将来性が無い。そして、それは、ロシアも似た状況。今回の一件は、最後の一個のクッキーを巡るEUとロシアの奪い合い。 それどころか、すでに旧東欧のほとんどを喰い尽くし、それでも停滞するEUは、ロシアを潰して安いエネルギーを搾取するための大植民地にしようという策謀さえ見え隠れする。

だが、ヨーロッパが部族対立を煽って分断することで、かんたんに植民地化できたバラバラの19世紀とは違う。言わばゼロベースのクリーンブーストで新時代を築きつつあるアジア・イスラム圏の連合パワーバランスは、大ロシアをも飲み込もうとするEUの野望を許さないだろう。また、米国も、膨張するEUをどこまで許容するか、はっきりしていない。それゆえ、ここにおいて、日本がロシアを支持する理由はまったく無いが、かといって、いまさらEUに媚びる理由もあるまい。むしろ、曖昧な外交の独自性こそが、生き残りの知恵だろう。

国境や条約を守れ、というのは、人口動態や産業能力が変化し続ける国際社会において、つねに既得権側旧体制の二枚舌。歴史を大きく振り返れば、百年も変化しなかった国境や条約は無い。歴史世界地図を見れば、どれだけの国が生まれて滅び、拡大して縮小したことか。明治時代の日本も、いったん締結してしまった不平等条約を改正するのに大変な苦労をした。というより、結局のところ、中国やロシアを倒し、列強に互すことで、力尽くで認めさせた。つまり、安定は大切だが、固定は破断を引き起こす。

我々は、この大きな国際的パワーバランスの有為転変の中に生きている。硬直した頭で、あれが正しい、これが悪だ、と、素朴な理屈で決めつけて、杓子定規な解決を図るのではなく、まったく妥協的に、とりあえず双方の当座の不満を丸め込むようないいかげんで曖昧な提案で、永遠に問題を先送りし続けることが大切だ。さもないと、百年前のベルサイユ条約と同じことが起こる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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