/匿名の読書猿氏が著した『問題解決大全』(フォレスト出版)は、労作の良書だ。あちこちの本から、問題解決に役立ちそうな手法を拾い集めてきており、実用的な意味でも示唆に富んでいる。そのS01、S02、S03を解説しよう。/
匿名の読書猿氏が著した『問題解決大全』(フォレスト出版)は、労作の良書だ。あちこちの本から、問題解決に役立ちそうな手法を拾い集めてきており、実用的な意味でも示唆に富んでいる。それで、私も今年度のゼミの教材にした。
とはいえ、この本、元ネタに引っ張られて、その要約がかならずしも問題解決というテーマの下にまとまっていない。用いている事例も、リアルな仕事や生活の経験が浅いのか、的はずれのものも少なくない。その一方、博覧強記で、余談の挿話コラムが多く、かえって本筋の理解を妨げてしまっている。
というわけで、メモ書き程度だが、その40の方法について、その追加的な解説をかんたんに書き留めておこう。
S01 100年ルール
これは、それがそもそもいまの問題なのかどうかを問い直すことで、問題そのものを消してしまう方法。たとえば、『論語』に、役所を建て直すのに予算が無い、という話があるが、孔子の解決策は、なにも新しく建てなくても、いまの建物を直せばいい、というもの。学生がアパートを探すのに、土地勘が無い、というような問題も、とりあえず自宅から通って、土地勘ができてから、良い場所を探せばよい。
S02 ニーバーの仕分け
神学者ニーバーの祈りとは、神よ、変えられないものを受け入れる恩寵を、変えられるものを変える勇気を、そして、両者を見分ける知恵を与えたまえ、というもの。酒や麻薬の更生会でよく唱えられるように、過去行状の罪悪感や禁断症状の苦しみは、変えられない。というより、ひとがかってに変えてはならない。無かったことにする、とか、苦しみから逃れるためにまた酒や麻薬に手を出す、とかいうことがあってはならない。同様に、気に入らないやつがいるから、殺す、なんていうのも、論外。それらは人の問題ではなく、神の領域で、人が思い悩んでも解決策など無い。ただ受け入れるのみ。そんなことを思い悩む余裕があるなら、自分がいまできることにこそ集中しよう、ということ。
S03 ノミナル・グループ・プロセス
後の問題発生を先に無くしてしまうための名目上だけのグループワーク。ほっておくと、物事は、声のでかいやつがかってに決めてしまい、後になってあちこちから反発が出てくる。これを防ぐために、小グループ(分科会)のブレインストーミングで全員に意見を出させ、全体会で集約だの投票だのやって、最初から関係者全員のコミットメントを取り付け、積み上げていく。結局のところ、結論は変わらないかもしれないが、少数意見の留意なども先に出て、実行段階で揉めることを減らせる。
(以下、つづく)
解説
2022.01.13
2022.02.01
2022.02.22
2022.03.02
2022.04.21
2022.05.06
2022.05.08
2022.05.20
2022.05.31
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。