「大学」は存在意義を失ったか?

2022.01.13

ライフ・ソーシャル

「大学」は存在意義を失ったか?

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/学歴インフレのせいで、かつての工員や店員と同じような低賃金で昇進出世の見込みの無い現場仕事しかなく、くわえて在学中の借金の返済のために、中産階級どころか自転車操業のワーキングプアに陥る。これでは、費用対効果、期待値があまりに悪すぎ、リスクが高すぎる。/

 だが、だれもいまどき大学を勉強するところだなどとは思ってはいないようだ。オンライン授業に強い反発があったのも、それが、大きいお子さまたちの幼稚園だからだろう。お庭でお友だちとお遊戯もさせてもらえないのに、おカネを取るなんてひどい、ということらしい。

 日本の場合、公立にせよ、私立にせよ、かつて大学は、明治の急務、すなわち、不平等条約の解消と、列強に対する防衛のために、欧米キャッチアップを牽引する近代エリートを促成するためにできた。これが戦後は、日本経済の復興と成長のためのホワイトカラーとエンジニアの養成機関に変わった。

 地方から集団就職でやってきて工員や店員になる中卒高卒に対して、都会の大卒は民間企業の管理運営を担い、その年功序列と終身雇用で生活の安定した中産階級を形成。逆に言えば、とにかく大卒にさえなれば、中産階級になれる、ということで、中卒高卒が苦労するほど、ムリしても子を大学に送り込もうとした。

 これに乗じて、大卒を量産する巨大な大衆大学も急拡大。ところが、「自治」をうたう団塊全学連世代が荒らして教育の息の根も止め、バブルに至ってレジャーランド化、それもはじけると、「実学」の名の下に、工員や店員の現代版、機械操作者と営業担当者の事前訓練の場と成り下がる。しかし、団塊世代の開き直りと居座りで就職氷河期となり、大卒過剰の学歴インフレとなって、もはや機械操作者と営業担当者としてさえも、まともな「正社員」、中産階級にはなれない。

 それでも、下流直行だけは避けたい、とばかりに、法外な「奨学金」という借金をしてまでだれもが大卒資格を買い求めた。それで、とりあえず進学率が上がって「大学」というものが存続、それどころか増大し続けてきたが、これも、そろそろ打ち止め。たとえ正社員として就職できても、学歴インフレのせいで、かつての工員や店員と同じような低賃金で昇進出世の見込みの無い現場仕事しかなく、くわえて在学中の借金の返済のために、中産階級どころか自転車操業のワーキングプアに陥る。まして、新卒での就職に失敗すれば、後から後から沸いて出てくる後輩大卒との競争に勝ち目は無く、永遠に派遣やアルバイトに甘んじなければならない。

 これでは、費用対効果、期待値があまりに悪すぎ、リスクが高すぎる。いや、それ以上に、親世代の没落もあって、いくら「奨学金」を借りても、今日の生活費を稼がずに未来にチャレンジする余裕からして無くなる。その一方、経済格差の恩恵で、遊んで暮らせて世襲の入社出世も保障されている富裕階層の若者がハングリーに勉強するわけもなく、大学はいよいよ幼稚園化。それで、よけい、下流階層は、ムリな借金を負ってまで、そんなところに行く価値を感じられない、という事態に。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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