/ある日、使者が来て、祖国が存亡の危機であります、どうかご帰国を、と、言われて、死にそうな実の父である老王に代わって敵をけちらし英雄になる。という妄想が映し出している現実の出口は、その妄想の中には無い。/
だから、救う、と言っても、なにから救うのか、自分でもわかっていない。それで、あらんかぎりの自分の中の醜さを投影して、現実のだれかを悪の権化に仕立てようとする。それどころか、いっそ、戦争や大災害でも起こってくれないか、と思っている。そうすれば、きっと自分にも出番があるんじゃないか、と、かってに信じている。
こういうニュータイプの阿Qどもが、世界的に溢れている。彼らは、自己が確立しておらず、そのアンチテーゼやジンテーゼである世界や神も、そこらにある犬や机と同類のものとしか理解できない。そのうえ、物語そのものも、マンガや通俗的な宗教解説本からの寄せ集めで、現実の世界の救いがたい複雑困難な現実には目を向けようとしない。
実際、過去の戦争の始まりは、いつもそうだった。国内不満層の内憂を適当な外患にぶつけて共倒れにさせる、というのが、政治の常套手段だ。あとになって、戦争はイヤだ、こりごりだ、と言うが、歴史を振り返れば、その始まりは、みんな幸福感に溢れている。それは、無名の市井の人でも、英雄として、救世主として意気揚々とパレードしていくお祭りだからだ。
ほんとうの現実は、いかんとも救いがたい。人の手に負えるようなものではない。そして、だからこそ、そこに救いの道を求めるのであって、自分で救えるなどと思っている連中は、たぶん永遠に救われまい。妄想の中に、現実の出口は無い。しかし、世界が救えない、というか、自分が救世主になれない、救世主となって自分が救われることがない、と気づいたら、連中は逆恨みして、社会正義を標榜する狂気のカルト集団として膨れ上がり、彼ら自身が世界を滅ぼす側に廻る。それが恐ろしい。
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物語
2016.12.15
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。