/もう時間がないのに、あの人は起きてこない。こまった二人は思案を巡らす。/
「いま、みんなに連絡した。すぐ来るって。でも、こんな変なクリスマス、子どもたち、喜んでくれるかなぁ……」
「おまえ、わかってないな、どんなクリスマスだって、やることに意味があるんだよ」
「だけど、ほんとはこれ、イエスさんの誕生日会なんだろ。クリスチャンじゃなかったら、やんなくてもいいんじゃないのか?」
「……あのさ、おれ、子どものころ、ずっとクリスマスにあこがれてたんだ」
「え? おまえんち、やんなかったの?」
「話したこと、なかったっけ。おれ、子どものとき、捨てられたんだよ」
「え?」
「ちょっと障害があってさ、そしたら、木箱に入れて海に流された……」
「おい、ちょっと待てよ、それって、ずいぶんな親じゃないか?」
「まあ、昔のことだからさ、昔はそんなもんだったんだよ」
「だけど、それにしたって……」
「でも、流れ着いた村の人がよくしてくれて、おれみたいなのが村にいると、魚がよく捕れる、商売が繁盛する、って」
「……」
「人生、いろいろあるよ。だけど、どこかに自分のことを大切に思ってくれている人がいると思えるだけで、どんなにつらくても、なんだか力が湧いてくるんだよ」
「……わかるよ」
「だから、……」
「さ、もうすぐみんな揃うよ。ちょっと変だけど、クリスマス、始めようか?」
2018年のクリスマスのお話 「サンタ、少子化問題に取り組む」
2017年のクリスマスのお話 「コンビニはクリスマスも営業中」
2016年のクリスマスのお話 「クリスマスケーキにロウソクはいらない?」
2015年のクリスマスのお話 「クリスマスの夜、サービスエリアで」
2014年のクリスマスのお話 「なぜサンタは太っているのか」
2013年のクリスマスのお話 「最後のクリスマスプレゼント」
2012年のクリスマスのお話 「サンタはきっとどこかにいると思うんだ」
物語
2015.12.17
2016.12.15
2017.12.20
2018.12.21
2019.12.17
2020.08.01
2020.12.23
2021.04.17
2021.12.12
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。