2018.04.23
顧客不在の壁、勝手につくったサービスを押し付けていたと気付けるか|service scientist's journal
松井 拓己
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
顧客不在サービスの本当の問題は、この状況に陥っていることを自覚できていないまま、サービス事業の推進に苦戦している企業が多いことです。
「顧客不在」なんて、自分達には関係ない。ビジネスは順調だし、顧客が大事だなんて誰でも分かっている。そんなのは、若手向けの話でしょ。そう思ったら要注意です。サービス改革を進めるなかで、社内から真っ先に返ってくる反応の代表格が「そんなこと、自分たちはできている」というものです。
その議論、顧客不在ではないか
収益向上や顧客拡大に熱心な企業の実情として、顧客を犠牲にしてしまっていることがよくあります。たとえば、業績向上だけが重視されて、ともすると「いかに売りつけるか」という観点での取り組みに奮闘しています。チャンスロスという言葉に敏感になって、自社都合のキャンペーンや売り込みを手あたり次第に全ての顧客に展開している場面もよく見かけます。
事業として、業績向上は欠かせません。しかし、それが提供者都合の押しつけで顧客を犠牲にしてしまうようでは、顧客からの評価は低下し、従業員は疲弊します。いずれは顧客も従業員も、離れてく恐れがあるのです。
ベテランほどぶつかっている顧客不在の壁
顧客思考や顧客目線は、どの企業でも重視され、会社に入ると真っ先に習うキーワードです。もしかすると、オフィスにこの言葉が掲げられているかもしれません。ベテランやマネジメントからすれば、そんな基本中の基本はできている、分かっている、と言いたくなるのも分かります。
しかし、ベテランやマネジメントこそ、知らないうちに顧客不在の壁にぶつかっているものです。
たとえばベテランは、経験を積むほどに自分の“型”が磨かれます。同時に、「顧客とはこういうものだ」と、顧客も“型”にはめてしまい、顧客への関心が薄れてしまいます。またマネジメントは、数値目標の達成とそのための進捗管理ばかりに意識が向き、顧客が議論の中に登場しなくなります。ベテランもマネジメントも、仕事に一生懸命になるほど「何をしたら良いか」という打ち手にばかり意識が向いて、顧客への感度が薄れてしまのです。
顧客不在の壁を乗り越えるキークエスチョン
「顧客のどんな事前期待に応えることに価値があるのでしょうか?」
事業成長を目指して、たとえば収益の向上や顧客の拡大、競争力の強化や差別化を実現するために、このキークエスチョンの答えを考えてみてください。
「事前期待といったって、山ほどある」と思ったら、山ほど出してみてください。「重要な事前期待なんて決まってるでしょ」と思ったら、特に重要なものを書き出してみてください。そして、一緒に仕事をする仲間や組織で議論してみてください。
あれ?山ほどあると思ったけど、全然出せないぞ。
おや?重要だと思って書いた事前期待だけど、なんか無難な感じだな。
このようにモヤっとしたら、顧客不在の壁を乗り越えるチャンスです。事前期待への感度を高めることで、主語を“自分たち”から“顧客”に切り替えて、サービス事業の成長を加速するきっかけになるはずです。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新