日本には選ばれ続ける優れたサービスがたくさんあります。一方で、サービスの向上にいくら取り組んでもうまくいかず、悩みを抱える企業が多く存在するのも事実です。優れたサービスを実現して成果を出している企業と、行き詰まっている企業の差はどこにあるのでしょうか。
組織的なサービス向上によってサービスの価値を高め、選ばれ続ける優れたサービスを実現するためには、乗り越えなければならない6つの壁があることが分かりました。今回はその壁をひとつひとつ、見ていきたいと思います。サービス向上の壁の全体像を捉え、今後乗り越えるべき壁の種類を理解することで、より効果的にサービスの向上を進めるための次の一手を見出して頂ければと思います。
◆建前の壁:サービスの「おまけ意識」から抜け出せない
サービス向上やCS向上と聞くと、白けてしまう企業が意外にも多いものです。「お客様の手前、建前で言っているだけでしょ。」という本音が聞こえてきます。
「サービス」という言葉は、「サービスしてよ」というように、主に「おまけ」や「無料」のような意味合いで使われてきました。このサービスの「おまけ意識」がまだ根強く残っていることもあります。サービスの価値向上や競争力強化に注目が集まる中で、当のサービス事業者の意識や建前論が壁をつくってしまっていることが多いものです。
◆情熱の壁:サービス向上への思いに火がつかない
日本のサービス事業者には、とても熱い思いを持っている方がいます。しかし、周囲の理解が得られず、取り組みが思うように進まないと、情熱の火が小さくなってしまいます。取り組みがぶつかった壁を乗り越えるためには、サービスへの情熱の火をつけ直さなければなりません。そしてその熱い思いを周囲に伝播させていく必要があるのです。
◆顧客不在の壁:何をやっても顧客に響かない
「いいサービスは喜ばれるに決まっている」と思い込んで、勝手につくったサービスを一方的に顧客に押しつけていては、サービスで顧客に喜んでいただくことはできません。これが「顧客不在の壁」です。顧客不在でつくられたサービスでは、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と言われてしまいます。何をやっても顧客に響かないのは当然です。
◆闇雲の壁:何から手をつけたらいいかわからない
いざサービス向上に取り組もうとしても、何から手をつけたらいいかわからず、いきなり壁にぶつかります。スローガンを掲げただけで現場に丸投げしてしまうと、サービスは目に見えないものなので、闇雲に取り組んでしまって活動が前進しません。これが「闇雲の壁」です。
◆実行の壁:プランは描けても実現しない
きれいなプランを描くだけでは意味がありません。それを実行できる人材や組織も育てなければ、「実行の壁」にぶつかって、プランが絵に描いた餅になってしまいます。しかしサービス人材の育成は、「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」と言って、OJT(On the Job Training)に頼り切っていることが多いものです。もちろん、経験を積むことは大切ですが、経験だけに頼った成長は時間がかかり、個人差も生まれます。サービスの人材育成を組織的にテコ入れする必要があるのです。
◆継続の壁:取り組みが長続きしない
「いつも立ち上がっては消えていく」という悩みも多く聞かれます。活動が立ち上がった当初は盛り上がるものの、しばらくすると忙しさに負けて、活動のモチベーションが低下してしまいます。この「継続の壁」をいかにして乗り越えるかは、極めて重要な課題です。「継続は力なり」という言葉の通り、「継続を力に変える」ような取り組みにしていかなければならないのです。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2017.06.27
2017.07.04
2017.07.11
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新