日本には選ばれ続ける優れたサービスがたくさんあります。一方で、サービスの向上にいくら取り組んでもうまくいかず、悩みを抱える企業が多く存在するのも事実です。優れたサービスを実現して成果を出している企業と、行き詰まっている企業の差はどこにあるのでしょうか。
サービス向上の6つの壁。それらを乗り越えるためのポイントを、前回から取り上げています。今回は残る3つの壁を乗り越えるポイントに着目します。
◆闇雲の壁は、サービスプロセスを組み立てて乗り越える
サービス向上において、現場や個人の経験知やセンスはとても大切です。しかし多くの場合、現場の知恵や工夫は、各自の頭の中にしまい込まれているだけで、組織的に活かしていることはあまりありません。そこで、現場の知恵や工夫を、組織の力に変えられるようなサービスプロセスを組み立てることが有効です。サービスプロセスは、失点をなくすための必要最低限なものを組み立てている企業は多いのですが、優れたサービスを実現するためには、得点を増やすためのサービスプロセスに組み直す必要があるのです。
◆実行の壁は、共創型サービス人材を育成して乗り越える
キレイなプランやサービス設計ができたところで、実行されなければ意味がありません。サービスはお客様と一緒に作るものであるため、その担い手である現場のサービススタッフの育成が欠かせません。そのキーワードは「共創型サービス人材」です。決められたとおりにミスなくきっちりとしたサービス提供をするという「提供型」ではなく、お客様の期待や不安に共感して、お客様と一緒になってサービスを作るためのスキルを磨いた人材です。具体的には、顧客の事前期待に応えるスキルを磨くことだけでなく、顧客の事前期待をとらえるアンテナの感度を高めることが、サービスの人材育成においては大切です。
◆継続の壁は、価値ある成果を実感して乗り越える
目に見えないサービスや顧客満足についての取り組みは、成果実感が極めて重要です。現場が納得して始めた取り組みで、成果を実感できると、一気にモチベーションが高まって活動が前進し始めます。逆に、成果を実感できなければ、忙しい中で活動の優先順位が徐々に下がってしまい、取り組みを継続することができなくなってしまいます。すぐに実行できて成果が出やすい施策を優先して行う「クイックヒット」や、大きな成果の前触れとしてすぐに実感できる「スモールサクセス」を活かして、成果実感を高める工夫をすることが、継続しながら活動を盛り上げていくためにはとても大切です。
また、顧客満足度が「やや満足」の顧客の97%がリピートしない可能性があるという調査結果もあります。サービス事業を成長や成功に導くための、価値ある成果とは何なのかも、しっかりと理解しておく必要がありそうです。
6つの壁を乗り越えるためのポイントとして代表的なものを取り上げてきました。価値ある事前期待を中心に据えて、それに応えるためのシナリオやサービスプロセスを描いて、共創型サービス人材により体現することで、価値ある成果を生み出す。その成果実感を通して、サービス向上への情熱が高まっていき、時間とともに活動が盛り上がっていきます。6つの壁と、それらを乗り越えるためのポイントを、サービス向上の活動のチェックリストとして活用いただき、組織的なサービス向上を進めるための次の一手のヒントを掴んで頂けたら幸いです。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2017.07.11
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新