日本には選ばれ続ける優れたサービスがたくさんあります。一方で、サービスの向上にいくら取り組んでもうまくいかず、悩みを抱える企業が多く存在するのも事実です。優れたサービスを実現して成果を出している企業と、行き詰まっている企業の差はどこにあるのでしょうか。
前回までで、サービス向上の取り組みがぶつかる壁について整理してきました。それは、「建前の壁」「情熱の壁」「顧客不在の壁」「闇雲の壁」「実行の壁」「継続の壁」です。これらの壁を乗り越えて、選ばれ続ける優れたサービスを実現するためのポイントを整理してみたいと思います。まずは今回は、最初の3つの壁である「建前の壁」「情熱の壁」「顧客不在の壁」を乗り越えるポイントを取り上げます。
◆建前の壁は、進むべき道を示すサービスシナリオを描いて乗り越える
サービス事業として、サービス向上やCS向上を実現するとで、どのように事業成長につながるのかを、具体的にシナリオとして描くのです。もしくは、サービスレベルや顧客満足評価が現状のままだと、このサービス事業はどうなってしまうのかの危機感シナリオを描くことも有効です。いずれにしても、サービス向上と事業成長を明確に結びつけるシナリオを描いて見える形にすることで、サービス向上やCS向上を建前だと捉えている社内の認識を変えていかなければならないのです。
◆情熱の壁は、信念を原動力にして乗り越える
壁にぶつかったときに、「うまくいかない理由」を探して諦めてしまうのではなく、「うまくいく理由」を見つけて仲間を増やして、壁を乗り越えていかなければならないことがよくあります。そのためには、取り組みの中心メンバー自身が、ビジョンと危機感と使命感を持っていること極めて重要です。ビジョンがなければ、どっちに向かって走ったら良いか分かりません。危機感がなければ、今までのやり方を変えることができず、前向きな変化が生み出せません。使命感がなければ、「誰かやってよ」と他人任せになってしまい、活動が進められません。ビジョン、危機感、使命感の3点セットに火をつけて、それを周囲に伝播させていきたいものです。
◆顧客不在の壁は、事前期待を中心に据えて乗り越える
いくら我々が良かれと思ってしたことであっても、顧客の事前期待に合っていなければ、サービスですらありません。余計なお世話や迷惑行為と呼ばれてしまうことすらあるのです。サービスはお客様と一緒に作るものなので、提供者が勝手に作ったサービスを押し付けてはいけません。そこで、優れたサービスを実現するためには、顧客の事前期待を中心に据えて考える必要があります。ただし、当たり前の事前期待に応えても、顧客から高い評価を頂くことはできません。どういった事前期待に応えることで、サービスの価値が高まったり、サービスで差別化できるのかを考えなければなりません。価値ある事前期待を見つけて、それを中心に据えてサービスを組み立てるのです。
次回は、残る3つの壁を乗り越えるポイントを取り上げます。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2017.07.04
2017.07.11
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新