サービスや顧客満足の向上が絵に描いた餅になっている企業が案外多いものです。しかし最近では、サービス競争が激化し、本当の意味でサービスの価値や顧客満足を高めなければ生き残れない時代になりました。そこで今回は、お客様から高い評価を得ている企業が押さえている5つの取り組みに触れたいと思います。
前回までで、事業としての価値あるサービス設計を進めることができました。そこで今回は、それを体現するために重要な取り組みについても触れてみたいと思います。それは、サービス人材の育成です。
(4)サービス人材を育成する
サービス人材の育成は、OJT(On the Job Training)という言葉を都合よく解釈して、「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」と言って、現場任せや個人任せな教育やトレーニングしかできていないことがよくあります。もちろん経験を積むことはとても大切ですが、経験を積むことだけに頼った成長にはとても時間がかかります。また、成長のスピードにも個人によって大きな差があります。これではサービスを組織的に高めることができません。そこで、組織的なサービス人材の育成を強化する必要があります。
ちなみに、お客様が評価するサービスを分解してみると、「サービスの成果に対する評価」と「サービスのプロセスに対する評価」の2つに分けることができます。実は、その両方に高い評価をいただかなければ、高い顧客満足は実現しないことが分かっています。このサービスの評価のうちで「プロセスの評価」を高めるために欠かせないのが、サービスをお客様と一緒に作ることのできる人材の育成です。ミスをしないことや、失礼のないマナーを身に着けることはもちろん大切ですが、一流のサービス会社では、こういった「失点しないこと」は当たり前と言えます。そこで、これから重要なのは、「得点を増やす」方向での人材育成です。共感性を発揮してお客様ごとの期待に応えたり、状況に応じた柔軟な対応をしたり、不安を抱いているお客様に寄り添う親身な対応をすることで、お客様に大満足していただく。そんなサービスを提供できる人材を育成したいものです。
この具体的な事例にご関心がある方は、以前の記事「スターバックスに学ぶCS向上のポイント」をご覧ください。
例えば、先述したサービスプロセスモデルを設計したら、それを人材育成にも活用している企業が増えています。業務のやり方を覚えるだけでなく、どのプロセスでどういう努力をするとお客様に喜んでいただけるのかを理解し、ロールプレイングを通して身に着ける。また、サービスプロセスモデルを自らが組み立てられるようになることで、サービスのマネジメント力を高めるなど。人材育成への活用方法は様々です。いずれにしても、今まで目に見えなかったサービスを、プロセスモデルの形に見えるようにすると、個別に経験を積むよりもはるかに効果的に人材育成を加速化できるのです。
さて今回は、サービスの設計や人材育成を現場や個人に任せきりにするのではなく、組織的なサービスのレベルアップをするための取り組みを取り上げてみました。これまでに4点の取り組みに触れてきましたが、これらの取り組みの多くが共通の課題を抱えています。それは「継続の壁」です。いくら価値ある取り組みでも、継続しながら成果を積み上げられなければ意味がありません。そこで次回は、こういった取り組みを継続するためのポイントに触れてみたいと思います。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2016.05.13
2016.06.07
2016.06.21
2016.06.28
2016.07.05
2016.07.12
2017.03.28
2017.04.04
2017.04.11
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新