実は、サービスの現場には経験やセンスで磨いた価値ある知恵や工夫がたくさんあります。しかしそういった知恵や工夫は普段、個人の頭の中にしまい込まれていて、組織で活用できていないことがほとんどです。これはまさに宝の持ち腐れです。プロセスのモデル化を通して、こういった価値ある知恵や工夫を見える形にして、現場の経験知を組織の力に変えることが、サービス改革や真のCS向上において、極めて重要です。
サービスでお客様に喜んでいただくことは、思ったより難しいものです。それを組織的に取り組もうとするとなおさらです。そこで、現場の価値ある気付きや工夫を組織の力に変えるための手法として、プロセスのモデル化について、前回から取り上げています。サービスプロセスのモデル化のうち前回は、最初のステップとして「サービスプロセスを分解して定義する」ことについて触れました。サービスプロセスの定義は慣れているようで、実は上手くできていなかったと気付いて頂けたと思います。さて、今回はその続きから始めたいと思います。
(ポイント2)プロセスごとに、満たすべき事前期待を定義する
特にここでは、お客様から高い評価や高い満足度を頂くために満たすべき事前期待は何かについて意識する必要があります。当連載で既に触れましたが、全てのお客様に共通的な事前期待よりも、お客様ごとに異なる事前期待(個別的事前期待や状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待)にフォーカスして事前期待を定義する方が効果的なプロセスモデルだといえます。すべてのお客様に共通的な事前期待に応えても、お客様にしてみれば「当たり前サービス」でしかないことが多いものです。
*事前期待について詳しくは、第3回(事前期待とは)の記事をご覧ください。
こうしてプロセスごとに事前期待を明らかにしていくことで、今までのサービスでは事前期待に応えられない部分が明らかになります。そこがまさにサービス改善のポイントなのです。
また、プロセスごとに事前期待を定義してみると、お客様にとって重要なプロセスが見えてきます。例えば、「サービスの利用には慣れているので手短に済ませたい」という事前期待のお客様は、「要望への対応プロセス」を重視することでしょう。しかし一方で、「サービス利用は不慣れなのでじっくり相談したい」という事前期待のお客様にとっては、要望への対応プロセスよりもはるかに手前の「ご相談プロセス」が最も重要なプロセスになりそうです。このように、サービスプロセスの中で特に重要なプロセスを明確にすることは、現場に「すべてのプロセスを全力で頑張れ」と根性論で指示を出すよりも、はるかに効果的だと言えます。
(ポイント3)期待に応えるために発揮すべきサービス品質を定義する
これまでに、サービスプロセスとお客様の事前期待を定義してきました。そこで今度は、お客様の期待に応えるための努力のポイントを明らかにするために、発揮すべきサービス品質を定義します。ただ単に「サービス品質を上げろ」と言われても、具体的に何をしたらよいのかピンとこないというのが、現場の本音だと思います。そこでサービスサイエンスでは、サービス品質を次の6つに分解して定義しています。「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」これら6つはどれも大切なものばかりですが、その中でも特にどのサービス品質を発揮することに価値があるのかを、プロセスごとに定義することが大切です。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2016.01.28
2016.02.11
2016.02.25
2016.04.22
2016.05.13
2016.06.07
2016.06.21
2016.06.28
2016.07.05
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新