/カントは、哲学最大の大物。彼は、1 経験主義と合理主義を一本化し、2 批判哲学を立て、 3 実践哲学を開いた。/
実際、カントの時代、国家というものは、王がいて貴族がいて諸民が、と言われていたが、フランス革命で、王のいない国ができた。まして新大陸のアパラチヤ山脈の西には、いまだ道も町もない「国」が地平線の向こうに広がっていた。それまで、農民の子は農民の子だったが、貴族にも官僚にも、銀行家にも工場主にもなりうる時代が開けていた。
でも、どうやって? 自分が努力すれば、世界が実現するのか。カントは、自分の努力が世界の実現をもたらすのを保証するかどうか知ることは、人間の認識の能力を超える、と言う。しかし、カントは、だからこそ、信じるのだ、神の存在と慈悲を要請するのだ、と言う。自分がどうするか、世界をどうしたいか、は、考えて理屈でわかることではない。認識を越える地平線のはるかかなたに、目標を思い定め、それへ向かって、自分を信じ、世界を信じ、神を信じる。認識に限界があるからこそ、そこに信じて自分を賭ける余地がある。
かくして、哲学は、カント以降、自分とは、世界とは、神とは、などという、むだな妄想のおしゃべりと言い争いを止め、実践哲学として、何をすべきか、を問うようになる。もちろん、それに正解など無い。だが、正解が無いからこそ、自由がある。つまり、そこでは、ただ自分だけが理由になる。そして、自分で結果の責任を引き受ける。
このように、カントは、近代の経験主義と合理主義の対立を止揚しただけでなく、哲学数千年の無駄話を批判哲学で打ち止めにして、なにをすべきか、を問うという、新たな実践哲学の新大陸を切り開いた。これらのことを知れば、なぜカントが哲学で最大の大物とされるかも、よくわかるだろう。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)
哲学
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。