14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第2章|成長〉第5話
実は、「結果と過程、どちらを重視するか」というのは、大人でもおおいに悩む問題です。たとえば勝ち負けを仕事にしているプロスポーツ選手を想像してみてください。野球選手の場合、ヒット率やホームラン数、勝ち星という結果を出さなければ、レギュラーとして試合に出られなくなるので、職業としての野球を続けることはできません。家族もやしなっていけません。彼らは「結果を出すこと」に生活がかかっているのです。だから必死になる。必死になるから感動的なプレーが生まれるわけです。
プロスポーツ選手ほど厳しくはありませんが、一般の会社員や自営で商売をしている人たちも、やはり結果にこだわらなくてはいけないと感じています。仕事でよい成績を上げたり、商売で利益を上げたりという結果なしには、給料がもらえないし、商売が続いていかないからです。
けれど、そうして「結果、結果を出さねば」とあせっても、結果は過程をきちんとつくっておかないと出ません。よい計画を立て、よい準備をし、心と体と能力を目標達成に向けていかねばなりません。そこをなまけてよい結果を望もうとするのは、都合のいい話です。そのように、大人たちは「結果が大事」と「過程が大事」との間で揺れ動きながら働いています。
設問にあげた〈気持ち1〉〈気持ち2〉は、どちらがよいわるいというものではありません。人それぞれに傾向性があります。しかし、次のようなことを留意すべきでしょう。
「練習をきちんとやっていればよい」「準備はちゃんとしたので」という態度、すなわち過程重視の態度は、往々にして、結果を出せなかったときの言いわけになります。やはり挑戦するからには「結果を出してみせるぞ」という執念がないと、過程があまくなるし、挑戦がいいかげんなものになります。また、成し遂げようとする真剣な気迫のなかでこそほんとうによいアイデアが生まれるものです。
ところが「結果を出すこと」が絶対化すると問題も起こります。人を蹴落とそうとしたり、不正をやったり、手段を選ばない心が出てしまいます。
スポーツの世界でよく話題になるドーピング(不正な薬物使用)、議員選挙でたびたび起こるわいろ(投票者に不正に贈り物をすること)、企業の間で行われるカルテル(製品の価格や生産数量を秘密で決めあうこと)などはその典型です。勝利、当選、利益という結果を絶対出さねばならないという気持ちから不正をしてしまうわけです。身近な例で言えば、試験でいい点が取りたいあまり、カンニングする誘惑にかられるのと同じです。
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。