/クリスマスは、イエスさまの誕生日。世界中の子どもたちも、きょう、みな祝福される。そして、天国に生まれ暮らす子どもたちも。/
……とにかくよかった、キヨコちゃんが帰ってきて。ほんと、すみません、ずっと御連絡もできずに。高校は? もうすこしだから、こっちから通うことにしました。じゃ、これからずっとここにいられるんだ。ええ、お父さんの店でさっそく修業です。そうか、じゃ、おじさんたち、毎日、様子を見に来ちゃうよ。はい、お待ちしていまーす。
キヨコちゃんも、よかったら、また前みたいにうちにも遊びに来てね、すぐ近くなんだから。ええ、ぜひ。昔、キヨコちゃんがうちで遊んでいたオモチャなんかも、ぜんぶ取ってあるのよ。えー、そうなんですか? なんだかいつもおじさんおばさんのところにおじゃましてばかりいましたもんね。お父さんは毎日、お店が忙しかったし、あの人はいつもどこか遊びに行って留守ばっかりだったから。いや、いいんだよ、ほら、うちはずっと夫婦二人っきりだから、キヨコちゃんがくるとにぎやかになって、ほんと楽しいんだ。ええ、そうなの、だから、キヨコちゃん、また来てね。いや、ほんと、キヨコちゃんが帰ってきてくれて、うれしいよ。なによ、あなた、真っ赤になって泣きそうじゃない? こ、こら、からかうなよ……。
きよこ、これを。あ、はい。ご予約のケーキ、これですよね。そう、これ。えーと、ロウソクは? いや、きよこ、いいんだ。え? ええ、いらないのよ、キヨコちゃん。でも、小さいのだったら、サービスで何本でもおつけしますよ。ほら、ほかにも、この季節、こんなかわいいサンタのロウソクとか、ツリーのロウソクとかもあるんです。きよこ、早く手提げに入れて、山村さんちはロウソクはいらないんだ。 ? ……ええ、うちは、毎年、いらないのよ、クリスマスケーキじゃないから。 ??? きよこ、もうやめなさい! ……あのね、一歳にもならなかったからよ。えっ? あいつ、生まれる前に死んだんだ、死産だったんだよ。……ご、ごめんなさい、わたし、すみません……
気にしないで、あの子、天国に行くのがちょっと早すぎただけだから。ああ、でも、なにも天国に直行しなくたってよかったのになぁ。ええ、それもなにもこんな日にね……。ちゃんとこっちの世界にも立ち寄ってくれていたら、キヨコちゃんと同級生だったはずなんだけどなぁ。……そうだったんですか。
きよこ! 店長、いいじゃない、キヨコちゃん、知らなかったんだから。まあ、うちに遊びに来てくれていたころには、キヨコちゃんもまだ小さくて、話すのはどうかと思ったけれど、ほんと、あのころのキヨコちゃんは、じつの娘のようにかわいくて、かわいくてなぁ。あら、いまだって、キヨコちゃん、かわいいじゃない? ああ、じつの娘が帰ってきてくれたようにうれしいよ。あなた、泣いちゃダメよ。
物語
2013.12.23
2012.12.24
2015.12.17
2016.12.15
2017.12.20
2018.12.21
2019.12.17
2020.08.01
2020.12.23
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。