「介護離職ゼロ」に不可欠な介護施設増のためには介護スタッフの人手不足の解消が欠かせない。「介護職の処遇改善」に並ぶ、そのためのボトルネック解消策として「業務の改善」と「職場の人間関係改善」を挙げたい。
三つ目の改善は地域ボランティアの積極募集だ。掃除・修繕・話し相手等々、素人でもできる仕事は少なくない。それらを地域ボランティアにやってもらうことで、介護スタッフは本来の介護業務に専念でき、長時間労働を解消できる。
介護施設は地域社会に溶け込むためにも、チラシを撒くなどして地域の家庭に積極的に協力を呼び掛けて欲しい。定年後に暇を持て余しているダンナを「将来の参考よ」とかいって連れ出してくれるよう、奥さんたちに訴えるのだ。
また、「育児の悩み事を人生の先輩に相談できます」と称して、孤立しがちな子育てママたちを子供ごと受け入れるのもよい。ママたちはノイローゼにならずに済み、お年寄りも若い世代のために役立てることで張り合いが生まれよう。
できれば、前稿の追記で提案した生涯ポイント制の対象にこうした地域ボランティアも含めて欲しい。この介護ポイントを直接の目当てにボランティアに参加する人が増えるとは必ずしも思わないが、こうしたことが自分や家族に対し参加する踏ん切りを正当化し、それをきっかけに積極的に参加する人たちもいるのではないか。
四つ目の業務改善はツールの活用だ。特に無線インカムは、手が離せないときに介護スタッフ同士が連絡を取って助け合うことができて実に有用だ。利用者を待たせずに済み、スタッフのストレスも下がり、長時間勤務の解消にもなるので、離職防止効果もある。トータルで見て安い投資だ。
他にも「見守り」カメラやセンサー、徘徊対策のGPS発信機付の靴や足リング、ロボットスーツ等々のハイテクツールも今後普及しコストも低減するので、費用次第で検討に値しよう。
次に、ボトルネック解消策の第3ブロック、「職場の人間関係改善」の方策を考えたい。「処遇改善」と「業務改善」の努力をした上での話だが、少なくともスタッフの悩みやストレスを把握するため、上司定期面談くらいはどこの職場でも実施して欲しいものだ。
しかし何より急務なのは腐ったリンゴを取り除くことだ。すなわち、他のスタッフや利用者から総スカンを食いながらも「頭数が必要」という理由で居座ることを許されてきた悪質なスタッフに対し、強烈な自省と改善を求め、それで直らない場合にはすっぱり辞めさせることだ。採用必要数が増えるので勇気が要るのは理解できるが、他のスタッフの離職を食い止めるためには急がねばならない。
最後に働く側への提言をしたい。強いプレッシャーを与えないと、悪質または凡庸な経営者は自ら仕組みを変えようとはしない。皆さん自身がその原動力となることが不可欠だ。それには口コミサイトやSNSの積極的利用が最も効果的だと小生は考える。
介護業界で働いている人たちが自らの経験に基づいてブラックな職場実態を告発し、就職・転職検討者たちがその情報を基に判断するようになれば、事態は大きく動く。
改善が進む職場には人が集まり、できない事業所は人手不足が加速して退出を余儀なくされるのだ。是非、冷静かつアクティブに動いて欲しい。
(本稿は、雑誌「公明」2016年4月号の特集「長寿社会を支えるために」の記事『深刻な介護の人手不足』解決の可能性を探る)をベースに追記等を行ったものです)社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/