概念を起こす力・意味を与える力・観をつくる力を養う『コンセプチュアル思考』のウェブ講義シリーズ
◆抽象によってとらえた内容―――それが「コンセプト」
その物事が何であるかを考えるとき、そこから要素を引き抜く形が抽象化ということでした。その抽象によって「とらえた内容」――そこには、本質的なことやおおもとの「一」なること、いくつかの物事を括る共通性などが含まれていました――をここでは「コンセプト|concept」と呼ぶことにします。
concept という英単語は、強調の接頭語「con-」に語根「cept」が付いた形です。ceptは語根「ceive=つかむ・受け取る」の名詞形です。したがって、conceptは「しっかりとつかんだもの・内容(そして自分の中に取り込んだもの・内容)」がおおもとのニュアンスです。広告業や企画職の世界でよく「この新製品のコンセプトは……」などといいます。これは構想や意図といった意味に先鋭化されていますが、やはり根っこには「つかむ」の意味を含んでいます。
同じ語根を持つ単語に percept がありますが、これは「(感覚器官による)知覚」です。concept はこの知覚したことを、さらにそれが何であるかという理解や解釈、構成にまで進めるはたらきです。一般的には「概念」という訳語が与えられています。ちなみに、この concept には「受胎」という意味もあります。たしかに、語根が「つかむ・受け取る」ですからうなずけます。また、ドイツ語でも「概念」にあたる語は「begriff」であり、これも「つかむ」の意味です。
いずれにせよ、私たちは抽象して何かをとらえようとします。しかしそのとらえた内容、すなわちコンセプトは、最初の段階では「粗い念」で、いまだ曖昧模糊としています。理性的な動物である人間は、そのようなモヤモヤとした状態が嫌いなようで、とらえた内容を言葉として定着させようとします。そう、「定義化」です。物事を定義することによってはじめて、「粗い念」だったコンセプトは輪郭と中身が与えられることになり、より確かにとらえられた状態になるのです。人間はそうした安定した状態を好みます。頭のなかを理という秩序で治めたいのでしょう。ともかく、そうした言葉の定義によって生まれるのが「概念」です。
◆人それぞれのコンセプト
さてさらに、ミニワークを通して理解を進めていきましょう。
〈ミニワーク〉
「事業」を下の形式で自分の言葉で定義せよ。
───事業とは「〇〇〇」である。
ビジネス社会に生きる私たちにとって、「事業」とは当たり前すぎるほどの言葉ですが、いざ定義するとなるとけっこう難しいかもしれません。まず、頭の中で事業のいろいろな場面や形式、実態などを思い浮かべてください。そして本質の部分に入り込んでいき、そこから何を抽象してくるかです。そして抽象したことを言葉に落とす。さて、あなたは事業をどう定義するでしょう。
次のページ「一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動」
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
ビジネスパーソンのための新・思考リテラシー『コンセプチュアル思考』
2016.02.25
2016.03.06
2016.03.14
2016.03.22
2016.04.04
2016.04.13
2016.04.20
2016.06.02
2016.06.17
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。