概念を起こす力・意味を与える力・観をつくる力を養う『コンセプチュアル思考』のウェブ講義シリーズ
◆抽象とはある要素を引き抜き把握すること
抽象という言葉ほど、本来の意味をじゅうぶんに理解されていない言葉もありません。「抽象的である」は、「あいまいでわかりにくい」というような二次的な意味に色が染まってしまい、ネガティブなニュアンスの言葉になった感があります。
本来、抽象の抽は「抜く・引く」という意味です。象は「ものの姿、ありさま」。したがって抽象とは、物事の外観や性質をながめ、そこから何かしらの要素を引き抜くことをいいます。抽象は何か小難しい言葉に聞こえますが、意味的には「抽出」とほぼ同じです。「植物の種からエッセンシャルオイルを抽出する」と言ったときの抽出です。この講義で、抽象と出てきたら抽出と置き換えてもかまいませんし、単に「引き抜く」と考えても大丈夫です。
では、ひとつ抽象化の簡単な問題をやってみましょう。
〈ミニワーク〉
私たちはこれらのものをながめ、何か共通する要素を探し出そうとします。
……その結果、「三角形」が思い浮かんできます。
このように、個々の物事をながめ、そこから
①ある要素を引き抜いて
②その共通の要素で括る。そしてラベルを付ける
これが抽象作業です。ちなみに、そのラベル(今回は「三角形」と書きましたが)は、私たちが概念と呼ぶものです。
◆具体とはそれに備わるものを一つ一つみていくこと
では逆に、抽象度を下げていく、すなわち、具体的に物事をみていくとはどういうことでしょうか。それは、多くの物事を一括りにするのをやめて、個別的に、それが備えている要素をていねいにみていこうとすることです。その過程では、曖昧さはどんどん排除され、物事の粒立ちがはっきりしてきます。
例えば、定規をていねいにみていくと、「プラスチック製である」とか、「透明で、厚さ1.5mmある」「3年間使っていてキズだらけだな」とか。また、おにぎりについても「母の手作りである」「ほかほかだ」「中には梅干しが入っている」など……。
このように一つ一つについて、特徴や性質をじっくりみていくことが、具体的に物事をみるということです。さきほどの抽象は物事から要素を引き抜く作業でしたが、具体はその逆で、物事に要素をどんどん備えさせるようにしていく作業となります。具体の具は「備わる/備える」という意味です。
◆何かを引き抜くとき同時に何かを捨てている=「捨象」
では、観点をふたたび抽象に戻します。私たちは定規、おにぎり、合掌造りの3つをみて、共通性は「三角形」であると抽象しました。
次のページ◆抽象度を上げるとあいまいさが増すのはなぜか
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。