新ビジネスの構想案を練る段階において時折発生する、ちょっと困った傾向というのが、基本仮説の検証をおざなりに済ましてしまい、協業候補や初期顧客への打診を進めようとしたがることだ。ビジネスモデルとしてユニークで面白そうであればあるほど、前のめりになってしまいがちだが、「本当にそうか?」と基本的な部分を検証する態度が不可欠だ。
Uber BLACKの1)満たすべきニーズというのは、特定地区においてどんな時間帯でも10~10数分程度で自分のいる場所に着実にタクシーが配車され、しかもそれがスマホ上で手軽に指示・完了されることだ。そのためなら多少の料金上乗せを受容できる上級の都市生活者もしくはビジネスパーソンが顧客層だろう。
この検証のためには、想定客のプロファイルに合致した人たちへのグルインなどを繰り返して、どういうシチュエーションで、本当に上乗せされた料金を払ってくれるのか、どれほどの頻度でサービスを使ってくれるのか、といったことを聞き取り調査するのがベストだろう。もちろん、並行してそうした顧客層のボリュームを推定することが欠かせない。
では2)の既存の仕組みの不備不満はどうだろう。日本の大都市圏では、タクシー配車があるだけでなく「流し」もそれなりに走っており、それへの不満は大きくないかも知れない。ただし地域・時間帯によっては競争があまりなく、タクシー配車も流しも当てにならない「空白地帯」が存在する可能性はある。例えば夕方以降の密集住宅地は意外と穴場かも知れない。
そうした多少具体的な仮説を幾つか見つけられたら、それぞれの候補地区へ想定する時間帯に実際に行ってみて、流しのタクシーがどれほど通るのかをチェックした上で、既存のタクシー会社に電話して配車をお願いしてみる。これを想定するプロファイルの地区で幾つか繰り返せば、基本仮説の2)が検証できるはずだ。
最後に3)の自社のソリューション(この場合、Uber BLACK)の有効性と納得性だ。アプリの使い勝手のよさや位置把握機能など、そしてドライバーのサービスレベルなどについては世界的に評価が定まっており、相当な裏付けが既にあるといってよかろう。あえて追加検証するとしたら、日本のゴミゴミした大都市でも競合他社以上に素早く配車を完了できるだけのメッシュの細かさ(参加タクシーの待機密度)を、あらかじめ十分な試行により割り出して、それが現実的かどうかを検討することは必要だろう。
以上、新しい事業の「基本仮説」なるものを何故十分検証する必要があるのか、どんなことをやるべきかを簡単に述べてきた。当然ながらそれぞれの会社によって新事業のテーマやビジネスモデルは千差万別なので、どこまでピンと来るものなのかは分からない。でも担当者諸氏においては、上申した役員に「そんなことも確認してなかったのか」などと非難されることのないよう、現実的に可能な限りは事前に済ませておくことをお薦めする。
新規事業
2015.08.10
2015.08.06
2015.09.16
2015.10.26
2015.11.25
2016.04.27
2016.06.22
2016.07.27
2016.09.28
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/