CS向上のために「どうすれば喜んでもらえるか」を一生懸命考えているけど、なかなか成果が上がらずに苦労しているという方が多いのではないでしょうか。実はこれは少し筋違いな努力なのです。そこで今回は「事前期待」を理解し、顧客の事前期待に応えるにはどうしたら良いかのヒントを掴んで頂けたらと思います。
「状況で変化する事前期待」とは、同じお客様でも状況によって変化する事前期待です。例えば、よく行くレストランでいつも焼酎を飲んでいても、猛暑日に汗だくでお店に入った時にマスターから「松井さん、今日はビールですよね!」と言われて、自分の思っていたこととバッチリ当たっていたらホスピタリティーを感じた、というものです。
また、「潜在的な事前期待」とは、思ってもみなかったサービスを受けて感激したという経験の元になる事前期待です。例えば、これは弊社の三宅の経験なのですが、奥さんと2人でハワイ旅行をした際にオープンテラスで夕食を食べていたら急に雨が降り出したそうです。すると食べかけの料理を置いて室内のテーブルに誘導されたので、もっと食べられたのにと惜しんでいたらウェイターがコースの最初の料理から全て出し直してくれて「思いもよらず」感激したそうです。
このように、お客様の状況を敏感に察知して「状況で変化する事前期待」にぴったり合うサービスや、思ってもみなかった「潜在的な事前期待」に応えるサービスを提供するというのは、リピーターやロイヤルカスタマーを獲得するのに極めて効果的です。
しかし、これを仕組化するのにはなかなか難しいところがあります。そこで、まずすべきことは2つです。1つはお客様への感度を高めること。そしてもう1つは、こんなことをしたら感動して頂けたという「成功事例」を蓄積することです。その中から、仕組(マニュアルや顧客データベースなど)に反映できるものを見つけていくのが良いと思います。
■マニュアルで感動のサービスなんて提供できるのか?
ここで1つ、「マニュアルで感動のサービスなんて提供できるのか?」というご質問にお答えいたします。
これはあるファーストフード店での経験談ですが、弊社の者がお店で注文をしてお金を払おうとした際に、たまたま財布に入っていた割引券を見つけてラッキーと思って出したそうです。その瞬間、別の会社のクーポンだと気づいて「しまった!」のですが、店員の方がサッと受け取って料金を割り引いてくれたんです。しかもニコッと笑ってレシートと一緒にそのお店のクーポン券を添えて「次回からはこのお店のクーポンでお願いしますね」と言ってくれて、感激したという経験がありました。
これも、潜在的な事前期待に応えてもらって感動したケースなのですが、実はこれはこのお店の「マニュアル」に書いてあるそうです。これを知って大変驚いたのですが、経営的に考えると納得で、競合が費用を出して作成したクーポンでお客様を獲得して、さらには感動して頂けるとなれば、マニュアルとして徹底するメリットはありそうです。ここからは推測ですが、このケースも最初は「成功事例」として挙がったものを「マニュアル」という仕組に反映したのだと思います。質の高い事例をマニュアル化することで、マニュアルサービスでも感動して頂く事は可能だと思います。
これまで見てきたように、事前期待の持ち方を意識して、どの事前期待に応えるかによって、顧客満足度が決まります。ポイントは、「共通的な事前期待」をしっかりと満たす仕組を整えつつ、「個別的な事前期待」・「状況で変化する事前期待」・「潜在的な事前期待」を把握して、サービスサイエンスのような理論に乗っ取ったロジカルな改善を納得して進めるということではないでしょうか。
サービスサイエンス・CS向上・サービス改革・品質向上
2012.03.13
2012.03.03
2011.09.22
2011.09.21
2011.06.12
2011.04.29
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2016.06.13
2017.01.24
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新