デザインには、利用者に意識させずに強制的に正しい行動をするよう促す力がある。そうしたデザインの力を上手く利用すれば、従業員やお客様など、あまり口うるさく言えない人に対しても正しい行動を促せる。JR東日本の迷惑行為を未然に防止する座席シートを例に、デザインによるマネジメントについて見ていく。
JR東日本は、慶應義塾大学理工学部の山崎信寿教授との共同研究により、膝を大きく開いて座りスペースを独り占めにする、足を前に投げ出す、居眠りをして隣の人にもたれかかるといった迷惑行為を未然に防止する座席シートを開発した。
このシートの特徴は、座席のくぼみを深くすることで腿を支え膝が開かれないようにし、座席のくぼみをより奥に、また背もたれをより垂直に近い形にし、座席の全面の角度をより急にすることで体を起こして座るのを促している。また、背もたれのくぼみをより深くし、隣の人にもたれかかるのを防いでいる。(JR東日本の当件のプレスリリースでは、シートデザインの変更点を写真で確認できる。⇒ http://www.jreast.co.jp/press/2010/20110304.pdf)
マナーを呼びかける社内ポスターやアナウンスだけでは、すべての人の行動を変えることはできない。各車両に監視員を置くことは、コストが嵩むと共に車内の雰囲気が悪くなってしまうので現実的ではない。そこで出てきたのがデザインだ。
デザインには、利用者に意識させずに強制的に正しい行動をするよう促す力がある。品質管理、生産管理用語に「ポカヨケ」というものがある。これは、工場の製造ラインなどで、作業者のうっかりミス(ポカ)があっても、それが機能しない、次の工程に反映されないようにするものである。このポカヨケにもデザインの力が多く利用されている。
たとえば、部品の据え付け作業工程において複数の部品の据え付けが残っている時に、ある部品が正しい位置に据え付けられるように、部品の据え付け位置の形状を少しずつ変え、正しい部品しかそこに入らないようにすることで、ポカがあっても次の工程に進めない、作業者が否が応でもそれに気づくようにするといったものがある。こういったものが、デザインの力によるポカヨケの例である。
デザインによるマネジメントの良い点は、最初にしっかりデザインしてしまえば、検査といった余計な工数、コストを掛けずにマネジメントができることに加え、マネジメントの対象となっている者に管理されているという意識を与えないことだ。
人から注意されたり、あれこれ指示されたりするのは、たとえそれがどんなに正しいものであれ、誰にとっても気持ちの良いものではない。そうした不快な気持ちを起こさせずに済むという点で、デザインは非常に優れたマネジメントツールなのである。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます