震災対応のみならず、コスト削減、海外市場開拓の必要から、調達-製造-在庫-配送のグローバル化が今後不可避となってくる。つまりサプライチェーンがグローバルに規模を拡大しながら、より複雑になっていく。この拡大・複雑化するサプライチェーンをどのようにマネジメントしていけば良いのだろう。パナソニックの取り組みからそのヒントを探る。
パナソニックの大坪文雄社長がグループ社員に向けに行った2011年度事業方針で、調達・ロジスティクスと生産革新の一部の本部機能をアジアに移転すると共にその他の職能でもアジアのサテライト拠点を大幅に強化すると発表した。これらの職能を「グローバルマニュファクチャリング部門」と位置づけ、強い生産拠点づくり・現地調達の強化・戦略的な外部活用など、グローバルモノづくりのレベルアップを加速するという。環境・技術品質、R&Dの本部機能は日本に残す。
パナソニックの2010年3月末時点での地域別販売比率は日本54%、アジア・中国23%、米州12%、欧州11%。日本メーカは日本での生産比率が高いこと、ならびに製造はより消費地に近い所で行うのが効率的なため、正確な数字は取れなかったが、パナソニックの国内生産比率はまだ高いと思われる。
海外生産比率はまだ高くないが、一方で、パナソニックの海外調達は進んでいる。2010年にパナソニックは海外拠点で調達する比率を2012年度に60%に高める計画を発表している。加えて、東日本大震災の影響もあり、震災にも負けないようなものを作るべくサプライチェーンを見直す動きが始まりつつある。パナソニックの今回の発表は、こうした動きを受けてのものだろう。
調達・購買の現場といえば、仕様が決まる要求元、製品に組み込まれる製造ラインや調達品が使われる所、そして、調達・購買品を作っているサプライヤの工場だ。
経営、オペレーションの金言に「三現主義」というものがある。経営、オペレーション上の意思決定や問題解決をする際には、実際に「現場」で「現物」を確認し「現実」を認識した上で行わないと誤った判断を招くことを伝えるものだ。
そういった観点から、サプライヤの工場が多い所に調達本部の機能を移すのは自然の流れと言える。それは、単に現地の人件費が安いということではなく、サプライヤの集積地に居た方が、他にどんなサプライヤ候補がいるのか、それらの生産現場、品質管理がどうなっているのかといった調達に必要な現実(情報)を、現場で現物を確認しながら容易に行うことができるからだ。
企業が成長していくには、新しい顧客を開拓するか、イノベーションにより新しい価値を提案するかの二つしかない。イノベーションによる価値提案はリスクが伴い、かつパナソニックのような大企業が期待される成長率を維持していくにはニッチ市場では不十分でマス市場を探し当てる必要がある。そうなると、日本市場が飽和どころか人口減による縮小が予想される現在、海外市場の売り上げを伸ばしていくことがますます重要になり、現地市場向けの海外生産というのが今後は増えていくものと考えられる。これは、コスト削減のための製造の海外移転ではなく、攻めのための製造の海外移転であり、日本でのモノづくりを守るというマインドを持った経営者でも比較的抵抗なく進められる話であり、今後の日本の製造の海外への移転はこの文脈だけでも増加すると思われる。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます