小学館や角川書店などの出版大手が、これまでの慣行であった書店で売れ残った本の返品を受け付けない代わりに、書店の利幅を増やす書店への売り切りでの取引形態を導入します。一見、返品自由でなくなると買い手側にはデメリットばかりのようですが、本当は逆です。今回は、返品自由を止め、買取制の取引に移行する事が、買い手側の大きなメリットなるという事を見ていきます。
小学館や角川書店などの出版大手が、これまでの慣行であった書店で売れ残った本の返品を受け付けない代わりに、書店の利幅を増やす書店への売り切りでの取引形態を導入するとの事です。(出所:日本経済新聞 2009年2月13日 13面)
現在の書籍流通では、返品自由な取引が主流のため、書店は実際に売れる量より多めに発注しがちで、業界全体で返品率が40%強にまで達しています。
市場で流通している40%の書籍が、ムダに作られ、ムダに書店に届けられ、ムダに書店から取次、出版社へ戻され、断裁される。なんとムダに資源、エネルギーが使われている事か。
返品自由な取引は、地球環境だけでなく、売り手であるサプライヤの経営を確実に圧迫します。当然サプライヤは、これらの返品本の製造、物流、回収、断裁コストを負わなければなりません。
実は、書籍流通のように明確になっている訳ではありませんが、日本では、様々な分野で過当競争でサプライヤの立場が弱すぎる事から、小売からの返品が自由な分野が少なくありません。書籍以外のお客様からも、小売からの返品が自由のため、在庫管理の精度が上がらず困っているとの相談を受けた事があります。この時には、お客様は、競合が片手の範囲に収まる数しかなかったため、メーカの寡占にある業界と思っていたので、非常に衝撃を受けました。
返品が自由だと実売データを把握するのが遅れるため、正確な販売・製造・在庫計画を立てる事ができません。これらの計画の精度が低いと在庫を多めに持たざるを得ません。一方で、計画が信頼できない、売れ筋に対して大胆に在庫を持つ事もできず、売れ筋での品切れが多くなってしまうという問題も、返品自由の業界に属するサプライヤは抱えています。
返品自由は、買い手企業にとってメリットのようですが、必ずしもそうとは言えません。
返品自由から生じるサプライヤのコスト負担は、当然、価格に転嫁されます。今回の小学館のケースでは、書店の仕入値を、返品自由の場合の定価の78%から、売り切りの時には65%と大きく引き下げています。角川グループパブリッシングが導入したある書籍では、販売後に1冊50円の協力金を受け取れます。これらの原資には、売り切りの取引による流通コストの低減が充てられます。
最近隆盛の小売のPB(プライベートブランド)が、良質なものをより低価格で提供できる理由の一つにも、この在庫リスク、販売数量下振れリスクがメーカ側ではなく、小売側にある事があります。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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