ベンチャーの株はオプション 【7】

2008.07.13

経営・マネジメント

ベンチャーの株はオプション 【7】

猪熊 篤史

ベンチャーなど成長企業の株式について引き続き考えてみたい。 【最終回】

大きな成長可能性を持つが、不透明性の高い環境下における株価の評価、ならびに、その総額である株主価値、あるいは負債や、場合によっては事業に活用しない遊休資産の価値も含めた企業価値の評価は複雑である。複雑なので、一律に1株5万円などと考えられることもある。

大きな成長可能性を持つが、不透明性の高い環境というのは「ゼロ・サム」、つまり、コインの表が出たら当り、裏が出たらはずれというような勝敗の確率が五分五分の場合、あるいは、当選確率が1%でも、当選すれば投資額の数百倍、数千倍の収入が与えられるがそれ以外は何の恩恵もない場合などである。

このような場合の企業価値を算定するためには、明確な部分の事業計画の価値を算定した上で、不透明な可能性に対応するプレミアムを上乗せするか、不透明な部分の事業可能性も織り込んだ事業計画に基づいて、そこからもたらされる適切なキャッシュフローを、適切な割引率で割引くことになるだろう。

もっとも、大きな収益が得られる可能性があっても「不透明」であること自体を嫌う投資家もいるので、価値評価は様々である。評価者ごと、また、評価目的ごとに評価方法は異なる。最も一般的なのは、それら全ての可能性の「(加重)平均値」ということになるだろう。

このような平均値と、評価者一人一人の好みや評価目的との「差」は「リスク」であり、また、「利益の可能性」、あるいは、「ビジネス・チャンス」でもある。

事業者として主体的に評価するのか、投資家として客観的に評価するのかによっても評価は異なる。

このような複雑な思考の結果、計算される推定値(平均値)と「えい、や~っ」という直感、あるいは、何となくという印象が重なることがあるから不思議である。

このような推定値や平均値を上方または下方に押し上げたり押し下げるのは、人の力である。事業計画を実行する人々や事業計画の実行に関与する人々の期待、思考、意志、能力などの影響を強く受ける。

企業価値の算定において、このような人の力を考慮する必要がある。

人々の意識や行動、そして、それらを束ねる力や方向性によって、価値評価は簡単に10倍になるし、逆に、10分の1にもなる。成長段階であれば、100倍や1000倍の価値を実現することも決して夢ではないだろう。

【V.スピリット No.71より】

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