ベンチャーなど成長企業の株式について引き続き考えてみたい。
「情報の非対称性」に関連して「逆選好(アドバース・セレクション)」という問題がある。株式の売り手は、株式のさらなる値上りが期待しないからこそ、株式を売却するのである。企業は、資金がないから株式を発行するのであって、資金が潤沢であれば、株式を発行する必要はない。株式の買い手、あるいは、新株の引受け手は、とんでもない不良株式をつかまされる危険を負うことになる。優良株式であれば、売却されることはめったにないだろう。優良企業であれば、好調な売上によって資金は潤沢になり、銀行からの借入も容易になるだろう。その場合、株式を新たに発行して資金を調達する必要はないだろう。
その他「モラル・ハザード」という問題もある。株式の発行者は、新株を発行して資金を調達するために、真剣に戦略を練り、綿密な事業計画を立て、熱心に説明し、誠実な態度をとるが、資金を調達したとたんに態度が変って投機的な活動を行わないとは限らない。
プリンシパル(依頼人)とエージェント(代理人)の利害対立も問題になる。依頼人である投資家は、自分の投資した資産の価値が増えることを期待する。しかし、投資資金を預る経営者は自分の給料やステータスなど、自分の利益を優先してしまうかも知れない。依頼者と代理人の利害は対立しがちである。依頼者の利益は損なわれてしまうかも知れない。このような損失は「エージェンシー・コスト」と呼ばれる。投資家が経営者の行動を監視しようとする労力もエージェンシー・コストとなる。このようなエージェンシー・コストを回収するために、株主は、より高い株式の期待収益率を求めることになる。一方、企業は、資金調達するためにより高い資本コストを支払わなければならないことにもなる。
これらの「情報の非対称性」に起因する問題は、あらゆる製品・サービスの売買や各種の契約において、多かれ少なかれ発生する。
このような問題を緩和するために有効なのが「シグナリング」である。メッセージの送り手が信用されるため、また、依頼者のエイジェンシー・コストを軽減するためには、信頼されるような信号を発信することが有効である。過去に約束を守った実績、社歴、学歴、家柄、あるいは、身なりなどによって信用を添えることによって情報の非対称性の問題はある程度回避できる。
しかし、このような信号をあえて発信することで情報の非対称性を埋めるのは理想的なコミュニケーションではないだろう。 (次回に続く)
【V.スピリット No.67より】
V.スピリット総集編4
2008.07.12
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