これまで数々のピンチのときに、漫画の力に助けられたと語り、現在、日本のポップカルチャー・コンテンツを世界に広げるべく活躍中の保手濱彰人さん。著書『武器としての漫画思考』(PHP研究所)がベストセラーとなり、今後は漫画を活用した、人財育成にも注力すると語る保手濱彰人さんにお話しを伺いました。 聞き手:猪口真
保手濱 そうですよね。他人の評価や批判に合わせ、他人から承認されることを最優先にしてきた登場人物たちが、「自分で自分のあり方を決めていいんだ」「自分で自分を良しとしていいんだ」と切り替わっていく。ロバート・キーガンの5段階モデルで言えばステージ3から4への移行にあたる変化ですが、そうしたシーンが漫画にはたくさん描かれています。たとえば『スキップとローファー』(高松美咲・講談社)には、教育熱心な両親の期待や抑圧に縛られていた主人公が、「自分で自分のあり方を決めていい」と気づき、親が支持していた大学ではなく、自分が行きたい本当の志望校に進むことを決意する、素晴らしいシーンがあります。
猪口 たしかにそういう漫画が多いですね。島耕作が出世していくプロセスも、肯定感が高まっていく感じがあります。
保手濱 潜在的に皆それを求めているのだと思います。だから人の心を打つし、そういった漫画が多いのでしょう。セルフ肯定ができていないと、他人からの承認を得ることが優先され、結果的にトラブルを招いてしまう。合理的な判断が下せなくなるのです。島耕作(弘兼憲史・講談社)でも、そういった場面がたびたび描かれています。

猪口 今の時代、マネジメントや仕事のあり方が大きく変わってきていますし、マネージャーも含めて一人ひとりの内面や個性を生かすべき時代です。
保手濱 物質がまだ飽和しておらず、論理的に機能を積み上げていけばビジネスが成立した半世紀前とは違い、今は物質が満たされ、より精神的で、より人間の心理に根ざしたものが重要になっています。軍隊式で人の情緒をノイズとして切り捨て、画一的にマネジメントすればよかった時代は終わりました。今は、多種多様な個性を折り合わせ、その試行錯誤の中からイノベーションが生まれています。
猪口 そうした観点を持つ多くの漫画がすでにあることも、日本の漫画クオリティの高さを証明しています。そういう意味でも、今回のプログラムはいわゆるミレニアル世代の新人や若手マネージャーに焦点を当てていますが、今後は、いろいろな方に触れてほしいコンテンツですね。
保手濱 今、中間管理職の方々は、いわゆるミドルエイジクライシス(仕事や家庭、キャリアの節目で生じやすい心理的な揺らぎや葛藤)に加えて、40〜50代の上の世代と20〜30代の下の世代に挟まれ、価値観の違いに苦しんでいます。そうした方々の、漫画を通じて人間心理や対人関係を学びたいというニーズが想像以上に大きかった。僕がこれまでやってきたことをマーケットイン(市場のニーズの観点)で評価していただき、今回の研修につながりました。
インサイトナウ編集長対談
2024.06.03
2026.02.09