/歴史的な差別を近代が解放した、というのは、捏造された近代の神話だ。むしろ近代化こそが、人間の標準理想像をあまりに狭く画一的に定義したために、同調圧力によって、そのミドルクラスモラリティから漏れる人々を社会から排除し、かえって人権抑圧を引き起こした。この独裁者無き全体主義と戦うために、多くの人道思想家たちが自分自身の人生を賭けて奔走した。/
26.11. 長期不況:1873年~1899年
米国の成長とドイツの統一は、世界的な過剰生産を引き起こしました。銀貨流通量の増加が銀の価値を下落させたため、1873年以降、各国は国際金本位制に移行しましたが、これがさらなる金融収縮と経済不況を招きました。とくに戦争賠償金に苦しむフランスは深刻な打撃を受けました。各国は保護貿易主義に転じました。穀物価格は暴落し、イタリア、スペイン、東欧、ロシアといった農業国から大量の移民が流出しました。
「これらは、世界がより一体化していく際の軋みの音だった」
アヘンの有効成分であるモルヒネ注射は、南北戦争や普仏戦争で負傷した兵士の鎮痛剤として広く使用されました。しかし、耐性が生じて、効果は薄れました。代替として、コカの葉からコカインが抽出され、当初は中毒性がないと考えられていました。当時、長期不況に加え、絶え間ない競争、厳格な倫理観、他人との比較などが多大なプレッシャーとなって、人々は無気力、癇癪、不安、不眠、アル中などに苦しみ、そしてときには自殺に及びました。これらの症状は、とくにミドルクラスの女性に多く見られました。彼女たちはますます家庭に閉じ込められ、良妻賢母、そして良き娘としての役割を強いられていた。伝統的に、これは子宮に起因する器質性疾患と診断され、「ヒステリー」と呼ばれました。モルヒネ中毒に苦しみ、コカインに救いを求めたアトランタの退役軍人で薬剤師のペンバートンは、1886年にハーブ飲料としてコカ・コーラを発売しました。
「新薬の副作用は、時間が経たないとわからないことが多い」
国際的な金融や文化で活躍するブルジョワのユダヤ人は、不況の原因として、ふたたび憎悪の的となりました。1886年、ジャーナリストのドラモン(1844-1917)は、3000人の有力ユダヤ人の実名を列挙した1200ページにも及ぶ大著『ユダヤのフランス』を出版しました。彼は、狡猾で劣等なユダヤ人が英雄的アーリア人を欺いている、と主張しました。この本は驚異的に売れました。1869年にスエズ運河を建設したレセップスと、1889年のパリ万国博覧会でエッフェル塔を建設したエッフェルは、パナマ運河の建設を計画しました。建設はスエズ運河よりはるかに困難でしたが、ユダヤ人実業家たちは多くの政治家に賄賂を贈り、80万人の一般市民に債権を売りつけました。1892年、このプロジェクトは破綻し、債券は紙屑となりました。このことは、人々のユダヤ人憎悪を煽りました。
「長期不況で、運河は、フランスの庶民の起死回生の希望だった」
フィラデルフィアのサイラス・ミシェル医師(1829-1914)は、南北戦争帰還兵の精神障害は神経損傷によるものだと考え、食事療法と休息で治療しました。彼はこの治療法を女性のヒステリー患者にも適用し、成功を収めました。一方、パリのジャン=マルタン・シャルコー医師(1825-93)は、5000人もの高齢女性を収容する大規模な療養施設の院長を務めていました。彼はヒステリーを機能障害だと疑い、催眠術を治療に試みていました。彼から学んだフロイト(1856-1939)は、1886年、男性ヒステリーに関する論文を発表し、ウィーンで開業し、新薬のコカインを大量に処方しました。これらは医学界から強い反発を受けました。しかし、数多くの臨床結果に基づき、彼は、ヒステリーの根本原因は過去の性的虐待にある、と結論付け、さらに性的衝動、すなわちリビドーが無意識の根源にある、と主張しました。
「それは、現在でいうPTSD、心的外傷後ストレス障害だろう。彼のリピドー説は、ニーチェの権力への意志に似ている」
ロンドンで法律の学位を取得したガンジー(1869-1948)は、多くのインド人が移住していた南アフリカで、1893年に開業しました。しかし、1860年代に金とダイヤモンドが発見されたことで多くの英国人が殺到し、黒人奴隷を使ってプランテーションを経営していたオランダ人とインドネシア人の混血であるアフリカーナーとの間で頻繁に衝突が起こりました。この混乱した状況の中で、インド人たちは、英国人イギリス人から奴隷のように扱われ、弁護士のガンジーも例外ではありませんでした。彼はインド人としてのアイデンティティを取り戻し、差別をなくすために、サティヤグラハ(非暴力不服従)を通して政治交渉を粘り強く続け、抑圧に屈することを拒みました。
「彼の人権活動はナショナリズムと密接に結びついている」
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
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