​ZEN大学のインパクト:新時代の通信制

2024.10.28

ライフ・ソーシャル

​ZEN大学のインパクト:新時代の通信制

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/この大学が正式認可になった場合、大学勢力図のバランスを劇的に変えてしまうかもしれないが、どこの既存大学も、あまり危機感が無いのが恐ろしい。転出学生も少なからず出て来るだろう。既存大学も、全日通学制ならではの魅力を改めて考えないと、ネット主導の国際社会時代に、もっとも未来からも、若者たちからも遠い存在になりかねない。/

社会的にも、もはや既存の日本の大学制度には無理が出てきた。限られた秀才を国や地方が支援してでも育成するという時代から、まるで、駆けつけビールのように、とりあえず大学、が一般化してきたものの、今日、勤労家庭の収入は減る一方、都市大学の学費は増える一方。そもそも、ただでさえ労働力不足の日本にあって、さして勉学意欲があるわけでもない若者たちを四年間も好きにさせておくような余裕は、この国から失われつつある。

大学の内容にも問題が大きい。理系はともかく、文系は、明治時代でもあるまいに、いまだに欧米礼賛追従が主流で、急成長しているアジア、アフリカ、南米に対する目配りをする余裕が無い。その一方、学生寄せに若者受けする娯楽関連に手を出すが、大学水準の研究として教えられる教員の育成が追いついておらず、学科はあっても、専門外教員や実務家非常勤でしのいでいたりする。また、建前では学際の必要性が言われながら、内実は狭い専門研究者間でのみポストが引き継がれ、広範にカバーできる研究者たちが連携しオーバーラップして学科を構成する仕組みにはならなかった。さらに、戦前からの問題だが、大学の権威に勘違いした世間知らずの教授たちが政治に口を挟み、大学そのものがリベラルを騙る牙城として、おかしな社会対立を引き起こしてきた。

もちろん、今回のZEN大学に問題がないわけではない。東浩紀氏がやっと「教授」になれそうなのは喜ばしく思うが、その他は若手や在野が多く、研究教育能力が未知数で、いかにも急拵え寄せ集めの玉石混淆という印象。これで東進レベルの魅力的なオンデマンド講義が揃えられるのだろうか。また、いくら効率経営とはいえ、将来的には海外からも同様のネット大学が日本に進出してくるのは必至で、この大学が東南アジアまで視野にいれた英語や中国語でのコンテンツを展開する国際性は薄い。おまけに、国内でも既得権側の既存大学やそのアンシャン・アカデミシャンたちは、自分たちの存在を脅かすこの大学を激しく攻撃してくるだろうが、すでに森安倍派の後ろ盾も失われた以上、これもけっこうたいへんだろう。

いずれにせよ、この大学が正式認可になった場合、既存大学からの転出学生も少なからず出て来るだろう。既存大学も、全日通学制ならではの魅力を改めて考えないと、ネット主導の国際社会時代に、もっとも未来からも、若者たちからも遠い存在になりかねない。とはいえ、既得権第一のアンシャン・アカデミシャンたちの意識変革は、これまたけっこうたいへんだろう。


純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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