マイナカードに関連するトラブルが頻発している。その多くは、きちんと事前に検証しておけばこんな大事にならなかったのに、と思われる問題ばかりだ。
しかし、このマイナカードのシステムのように、一般大衆と様々な役所の非システム担当者がユーザーであり、かつ個人情報を扱う大規模システムの場合、テストが終わったからといってすぐにカットオーバーしてはいけない。
システムとしての精度を上げるため、実際のユーザーの一部またはそれに限りなく近い、「システムのことを全く知らない」素人の人たちを多く集めて、カットオーバーの前にしばらく使ってもらう必要がある(「試行」とか「トライアル」などと呼ばれる)。
開発者が想定していない操作や正規でない処理を素人ユーザーが行っても、ちゃんと「エラー」表示されるのか、とんでもないトラブルにならないか、周辺システムとの間で思わぬ影響を受けないか/及ぼさないか、等を検証するのだ。
今回のマイナカードで表面化したような人為的ミスによるトラブルの大半は、試行をきちんと行っていればすぐに発現する類だ。発現した不具合の原因を突き止めて、試行期間中に防止策を講ずることができたはずだ。
今回のマイナカードのシステム開発の主契約者は、そうした「試行」というやり方に慣れていなかったのかも知れない。もしくは今回のような複雑なシステムだと、試行をするとしても幾つもの関係機関と非常に面倒な調整を要するので、試行自体を嫌がる発注者(デジタル庁)の反対論に気おされてしまったのかも知れない。
しかし、もしかすると開発スケジュールが遅れたために、当初は計画していた試行を省いてしまったか、試行規模(人数×期間)を話にならないほど縮小してしまった可能性も多分にある。
当初は計画していた試行を省く/大縮小することを、システム開発事業者が自ら提案するとは考えにくい。往々にしてあり得るのは、システム開発のリスクをよく理解していない発注主(この場合はデジタル庁または内閣)の「偉い人」が、無理にでもカットオーバー予定に間に合わせるよう「鶴の一声」で命令するケースだ。
「公開日は世間と関係省庁・自治体に通知済だから延ばせない。何としても公開日に間に合わせよ。そのためには多少リスクをとっても構わない。最終的な責任は私が取る」と。
しかし実際にそのリスクが顕在化(今回のように致命的トラブルが表面化)しても、こうした「偉い人」たちは「そんなことを言った覚えはない」と頬かむりするのが常だ(だから外資系業者なら一筆書いておいてもらう処だが、日系では聞いたことがない)。
今回は本当のところ、どうだったのだろう。それこそ報道陣には事実を「検証」して欲しいものだ。
今回こうした検証不足による一連のトラブルを招いておきながら、政府は2024年秋に健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に一本化する方針を未だ取り下げておらず、河野大臣が自分への「何らかの処分」を口にするだけだ。国民の不安を取り除いて信頼を回復するポイントを見誤っていないだろうか。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/