復帰後50年にわたって膨大な金額の振興策を進めながら、いまだ沖縄の県民所得は圧倒的に低い。それは日本政府と沖縄県の産業振興政策があまりに現実性も戦略性もなかったためだ。しかし今一度冷静に現実を見たとき、今のニッポンが必要としている要素を沖縄が持っていることに気づくはずだ。
つまり沖縄県でITサービス産業を本格的に振興すれば、そこで企業は収益を伸ばすことができ、雇用される従業員は相対的に高い賃金を享受でき、地元にお金が落ち、ひいては地元自治体も税収を飛躍的に上げることができる。そうした社会経済的循環が十分期待できるのだ。
ではどうすれば沖縄の地でIT産業を本格的に振興できるだろうか。実はそんなに難しいことではない。他の主要産業に比べ、特別な地理的条件も、とんでもなく大規模な投資も必要ではない。
若年層の人口が多い沖縄なので、公立・私立の中学・高校、高専、専門学校、大学に至るまで本気でITスキルを教えれば、一挙にプログラマーとITエンジニアを増やすことは難しくない。つまり日本中で一番厄介な「産業の担い手不足」問題を解決する素地が沖縄には整っているのだ。
課題の一つは、彼らにITスキルを教える教師・講師が現地では圧倒的に足らないので、本土から呼び寄せる必要があることだ。ここにこそ公的資金を大胆に投入する必要がある。思い切って地元教育機関でのそうした採用枠を増やすべきだ。そして本土の既存IT企業が従業員講師を教育機関または自社や関連会社の地元事業所に派遣しやすくなるよう、そして教える気のあるITスキル保有者が気軽に移住できるよう、補助金を出すのも効果的だろう。
もう一つの課題は、育ったプログラマーとITエンジニアが地元・沖縄で働く場を確保することだ。方策には2通りあって、沖縄でのITベンチャーの起業に様々な優遇策(例えば資本家とのマッチング支援やユーザー企業への営業支援など)を講じることと、本土の既存IT企業に沖縄への本格進出を依頼し、その際に優遇策(様々な税の優遇、地元の教育機関への紹介など)を講じることだ。やはりここにも公的資金を思い切って投入して欲しい。
こうした課題の素早い解決にはどうしても国からの支援が必要だ。心ある日本国民は、沖縄への支援策が(麻薬的な作用でなく)正しい方向に向かうのであれば、正しい税金の使い方だと納得するに違いない。沖縄戦の悲惨さ、海軍司令官の大田実海軍中将が自決直前に海軍次官にあてた電文『沖縄県民斯(か)ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ』の意、そして占領下およびその後に県民が置かれ続けた理不尽な状況をよく理解しているのだから。
先に挙げた対策が本格化すれば、比較的短期間に沖縄でのITサービス産業の振興は可能となる。産業のエコシステムが一旦出来上がれば、沖縄の地はプログラマーやITエンジニアにとって理想の棲み処となろう。
温暖で風光明媚な土地と温和な性格の地元民たちという、集中して仕事をした後にすぐに気分転換できる環境が身近にあることは何ともうらやましく、都会でITスキルを持っている人たちはきっと争ってこの地に移住するようになる。
そして沖縄で生まれ育った人たちと共にITサービス産業を大きく育て上げ、地元でお金を循環させ、沖縄の県民所得を抜本的に底上げすることになろう。我々は沖縄の人たちに幸せになってもらいたいのだ。社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/