「理系」と呼ばれる分野の取材と執筆を得意ジャンルとするライター集団「パスカル」を率いる、インタビューのプロフェッショナル、竹林篤実さん。哲学科の出身ながら、文系・理系の枠を超えてライターとして幅広く活躍される竹林さんにお話しを伺いました。(聞き手:猪口真)
竹林 私の場合、取材をさせていただいたキーエンスさんのスタイルが原点です。キーエンスはいわゆる「営業」をしません。「お客さんのところに行くときには、お客さんの大切な時間を奪うという事実をまず自覚せよ」と営業に言うそうです。時間を奪ってまで、お客さんに対してあなたは何を提供するのかが問われるのです。当然、自社の説明などはまったく必要ありません。今、そのお客さんの業界で何が起こっているのか。どんな問題で誰が困っているのか。どういう手法で解決されたのか。お客さんに役に立つ情報をどれだけ調べた上で行けるかです。キーエンスで週に3日以上営業に出てはいけないと言われるのは、そのための準備を2日間するからです。
また、キーエンスの営業はたいてい生産ラインに入れてもらえるそうです。生産ラインというのは、普通なら部外者は入室を許されない、企業秘密の塊みたいなところです。そこで営業が何をするかというと、ひたすら見るそうです。お客さんの生産ラインで行われている作業を見て、ここにどんなセンサーがあれば人がいらなくなるかといった理想の状況を徹底的に考える。決して何かを売ろうとしたりはしない。
今、ソリューションプロバイダとよく言いますが、結局そこが営業の仕事なわけです。そのためには何が問題なのかを見抜く力、バックヤードの知識が必要です。当然、お客さんから何で困っているかはなかなか言ってもらえませんし、言ってもらっているようではだめなのです。お客さんがすでに問題意識として認識している内容は、ほかでも言っているはずですから。お客さんが気づいていない問題点を見つけて解決してこそ値打ちがある。
猪口 竹林さんは、自分で納得して、取材をして引き出して書くというスタンスが一貫しています。今まで40年近く働いてきて、働き方のポリシーのようなものはありますか。
竹林 働き方のポリシーというほどたいそうなものではありませんが、フリーという言葉の意味はよく考えます。フリーは自由であり、無料である。自由の裏側には無料があるわけです。どういう意味かというと、断る自由はある、でも断ると仕事がない。パスカルのメンバーにもいろいろな考え方がありますし、一概には言えませんが、私は取材がダブらない限りは仕事を受けます。おそらく仕事を断ることに対する恐怖心みたいなものがあるのでしょうね。もう一つポリシーがあるとすると、このクライアントと仕事していいだろうかと、最初によく考えます。「受けない」という選択もしました。それも選べる自由です。
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インサイトナウ編集長対談
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