「理系」と呼ばれる分野の取材と執筆を得意ジャンルとするライター集団「パスカル」を率いる、インタビューのプロフェッショナル、竹林篤実さん。哲学科の出身ながら、文系・理系の枠を超えてライターとして幅広く活躍される竹林さんにお話しを伺いました。(聞き手:猪口真)
お相手:竹林篤実様
コミュニケーション研究所 代表
広告会社を経てライティングの世界へ
猪口 竹林さんは、理系ライター集団「チーム・パスカル」を立ち上げ、理系ライティングのトップランナーとしてご活躍されています。京都大学哲学科のご出身と伺いました。僕らの時代だと、大企業や国家公務員へと進むような道もあったと思います。理系ライティングの道に進んだのはどのような経緯だったのでしょうか。
竹林 実は、就職活動はうまくいきませんでした。一浪一留しているので条件としてもよくないし、そもそも「文学部って何やねん」という時代でした。就活を真面目に取り組んだわけでもなく、入ったのは京都の印刷会社です。たまたま面接に行き、社長に「君、ホンマにうちに来てくれるんやな」と言われて、「はい」と言って就職を決めたのですから、どれだけ不真面目だったか(笑)。
結局、最初に入った会社を4年で辞めて、京都のデザイン事務所でコピーライターのようなことを4年ほどやった後、大阪の広告代理店に移りました。ところが、半年経たずにその会社がバブル崩壊で倒産してしまい、たまたま一緒だったデザイナーと何か一緒にやろうという話になり、個人事務所を興しました。そうすると嫌でも仕事を取りに行かなければなりません。それで、教育関係の仕事をしている京大の先輩から仕事をいただいて、取材の仕事をするようになりました。
猪口 そこからインタビューの極意をつかまれていくわけですね。
竹林 インタビューや取材の仕方についていろいろな本を読むと、「取材では自己主張してはいけない」「聞き手に徹しなくてはいけない」などのコツがわかってきました。その中の一冊に、「取材が終わった後に、相手から『今日は思わぬことを話してしまいました』という一言を引き出せると最高だ」と書いてあったのです。そう言ってもらうためにはどうしたらいいか。それには、相手を熟知している必要があります。だからといって、相手のことをいろいろ調べて、それを最初から出して「もう知っていますよ」というのでは、相手は何も面白くないわけです。人というのは話したい生きもので、聞いてほしいのです。だからこちらがうまく聞ければ、気持ちよく話してくれる。では、うまく聞くためにはどうしたらいいのか。単純なことですが、最初の挨拶や礼儀正しい作法の大事さに、30歳を過ぎてやっと気がつきました。
そこからは取材をして原稿を作る仕事が中心です。その頃付き合いのあった広告代理店の販促やプロモーションの企画を作るお手伝いもしてきましたが、そこでも、お客さんのところに行って話を聞く姿勢を重視していました。代理店の思いで勝手に企画を作るのではなく、ユーザーがどう考えているのかが大事です。BtoCとBtoBで話のポイントが全然違うという実態も、その時によくわかりました。
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インサイトナウ編集長対談
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