昨夏のコロナ過の最中に行われ、大いなる議論を呼んだ東京オリンピック・パラリンピック。その招致時に企図された狙いの大半はコロナ過もあり脆くも崩れ去ったため、費用対効果の面では見るも無残な結果となった。それも含め、ごまかさずにきちんと総括すべきだ。
今回、東京オリパラに合わせて建て替えが宣言された新国立競技場は当初、国際的に高名なザハ・ハディド氏に発注したが、結局はあまりに高額な建築費に非難が高まった挙句、デザイン変更案などを経て(巨額の違約金を伴う)キャンセルに至ったことは周知のとおりだ。そもそも誰がどういう責任を以て「アンビルトの女王」の通り名を持つ同氏に発注しようとしたのか、この巨額な「カネをどぶに捨てる」行為の責任を誰がどう取ったのか、さっぱり不明だ(これがニッポンのメディアの追求の中途半端さを象徴している)。
その後、新たに採用された隈研吾氏の木と竹を活かした建築設計は和のコンセプトに基づく非常に素晴らしいものだった。しかしザハ・ハディド案の高コストへの非難の高まりに恐れをなしたか、再設計プランのRFP(企画要求)は構造的に開閉式屋根を採用せず、実現された新国立競技場は全天候対応施設ではない。おのずとこの施設で開催できるイベントは限定され、全天候対応施設に比べ収益力は雲泥の差だ。この例は、経営感覚が欠如した「官」が主導するインフラ整備によるレガシー効果の欠陥を象徴している。
一部、有明アリーナのように民間委託を梃子にまともな収益計画を練っている例も散見されるが、大半の新設施設は「作ればおしまい」という旧来の発想に囚われたままに見える。今後、東京都をはじめとする自治体はそれらの施設の維持管理費に苦しめられるのが目に見えている。
一方、東京オリパラ大会に掛かった費用は計画と実績でどれほど違ったのか。立候補ファイルによれば、大会に係る経費(予算)は7,340億円(大会組織委員会3,013億円、非大会組織委員会4,327億円)とされていた。その後何度か予算が追加増額され(この増額の大半はコロナ過とは無縁だ)、2021年12月時点での見通しでは1兆4530億円となると発表されている。
ほとんどの会場で無観客での開催となったため、観客に対する新型コロナ対策費や警備・輸送にかかる費用が少なくなったことや、式典等の簡素化や契約見直しなども進めた結果、1年前の見通しに比べれば2000億円ほど下回る見込みになった。しかし当初予算に比べ倍増したことは「当初予算がいい加減の極みだった」と糾弾されてよい。
最後に、運用面の総括を考えてみよう。この東京大会の運用に関してはどの面を見るかによって天国と地獄ほど評価の開きが出てくる。
まず体制の面では特にリーダー層がずっと安定せず、すったもんだに終始した。2013年9月のIOC総会で東京開催が決定した3か月後の12月、招致の主役の一人である東京都知事・猪瀬直樹氏が徳州会グループからの金銭授受問題で辞任。その後任の舛添要一氏も約2年半後に、政治資金の公私混同問題により辞任。JOCの竹田会長が五輪招致を巡る汚職疑惑を受けて2019年に退任。五輪開催に執念を燃やした安倍晋三氏は1年の延期を宣言した約半年のちに体調悪化を理由に首相を辞任。最後に、大会組織委の森喜朗氏は女性蔑視発言で会長を辞任。よくまぁこれだけ続いたものだ。
社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/