ノーベル賞受賞の真鍋さんは日本の研究機関と若い研究者の現状に心を痛め、「好奇心に基づく研究に立ち帰れ」と何度も叱咤激励していた。しかしこれは研究者個人に対するものではなく、本当は日本という国家への警鐘だ。
気候変動の予測研究の先駆者で、先日ノーベル賞を受賞した真鍋淑郎さん(90)。様々な場で受賞の喜びを語る際には必ずといってよいほど、「好奇心が自分の研究の原動力だ」「最もおもしろいのは、好奇心に基づいた研究だ」と何度も繰り返していたのが印象的だった。
そしてその裏返しとして、やんわりとした言い方ではあるが「若い人たちが(好奇心に基づいてではなく)研究費獲得のために時代の流行を追いかけている」という日本の現状について批判的というか、若い科学者に同情的だった。
要は産業政策が要求するような近視眼的なテーマなら予算が付きやすいが、そうではない「何に役に立つのかすぐには分からない」研究テーマ(しかし実はイノベーションはこういった研究からこそ生まれている)だと途端に渋くなる現状を危惧しているのだ。
そして受賞発表直後の記者会見では、アメリカ国籍を取得し日本を離れた理由を問われ、日本の他人の目を気にしすぎる風潮が合わなかったことを挙げていた。一方、アメリカでは自分のしたいようにでき、他人がどう感じるかも気にする必要がないことを称賛していた。アメリカでは氏の研究のために上司はあれこれ言わずに予算を確保してくれたという。
またその記者会見でも他の場でも、政策決定者と研究者がどのようにコミュニケーションをとるのか、もっと考えるべきではないかと氏は再三指摘していた。これは日本学術会議での任命問題と絡める向きもあるが、むしろ真鍋さん自身が1997年に帰国して科学技術庁の研究プロジェクトの研究領域長に就任しながら、2001年に辞任し再渡米した際の経験からの言葉と思われる。氏は当時、役所の縦割り行政のため他の研究機関との共同研究を阻まれたことに失望し、辞任したと見られている。
こうしてみると、真鍋さんのコメントの多くは、イノベーションを背負っているはずの日本の研究者が置かれている環境に関する、とてつもなく深刻な問題を浮き彫りにしているように思える。
好奇心に突き動かされて没頭したい研究テーマではなく、予算獲得しやすいという理由でそれほど好奇心の湧かない研究テーマを選ばざるを得ない研究者が少なくないことを示唆しているのだ。そして研究テーマをよく理解できない国や上層部が気に入らない分野への予算を絞り、安易に方向性を変えさせてしまうことを示唆している。そんな状況では、潜在的にはインパクトがあるが世間的には理解されにくい研究を、生涯を賭けて追求しようとする若者が減ってしまうのは当然だ。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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