「リモートワーク」は、企業文化に死をもたらすのか?

画像: 石塚しのぶ撮影

2020.06.10

経営・マネジメント

「リモートワーク」は、企業文化に死をもたらすのか?

石塚 しのぶ
ダイナ・サーチ、インク 代表

リモートワークが長期化する中、会社としての一体感や仲間意識への影響が心配されている。アメリカではかれこれ3カ月近く「リモートワーク」を強いられている企業も少なくないが、機能面では在宅でも問題なく仕事をこなせるものの、同僚と顔を合わせない環境が、「企業文化」や「コラボレーション」の維持を困難なものにしていることは言うまでもない。

前述のように、オンラインで「全社会議」を行っている会社はたくさんあるが、北米アクセンチュアのエサレッジCEOは、社員が「全社会議疲れ」の状態にあるのではないかと憂慮する。北米アクセンチュアでは、6万人の社員を対象にオンライン全社会議を定期的に開催しているものの、それとは別に、チーム・リーダーやプロジェクト・マネジャーがチーム・メンバーに定期的に連絡をとり、問題を早期に発見して解決につなげることを奨励しているという。個人レベルでのコミュニケーションを重んじているということだ。

イノベーションにも影響
リモートワークがイノベーションの鈍化につながるのではないかという声もある。アイデアは思いもかけない時に生まれるものだ。必ずしも正式な会議の席ではなく、カフェテリアでランチの順番を待っている間に同僚と何気なく交わした会話や、廊下での立ち話がヒントになる。

「スケジュールに従ってイノベーションを起こすことは不可能」と、フォードやアディダスなど大手とのコラボレーションで知られる3Dプリンティング技術開発会社、カーボン社のカルマンCEOは語る。『イノベーション』は偶然に触発されて生まれるもの。リモートワークで個々が孤立している状態でイノベーションを起こすのは難しい、ということだ。

リモートワークで成果を上げている企業も多いが、そうした企業の多くが、従業員の大多数が長年共に働いてきた同僚であり、オンラインの会議でもお互いの表情を敏感に読み取れる、また、同僚の好みや癖について予備知識を持ったコミュニケーションができるという利点を備えている。しかし、新入社員がリモートで働く場合はどうなるのか。同僚との心のつながりや仲間意識を育むことができずに、その結果、企業文化も衰えてしまうのではないか。

「オンライン・ゲーム」や「オンライン読書会」、飲み会やコンテスト、「オンライン・ダンス・パーティ」など、会社によってはあらゆる社交イベントを企画しているところもある。しかし、時折、会社では避けて通れない「不都合な会話」、つまり、上司から部下への叱責や同僚同士の意見の衝突は、本来なら顔を合わせて行われるのがベストだ。オンラインでは伝わらないニュアンスがたくさんある。

また、人間関係とは、何気ないちょっとしたふれあいにより育まれていくものだ。アメリカの大手家具メーカー、ハーマン・ミラーのCEOアンディ・オーエン氏は、ロックダウン以降に失われてしまったと感じるものとして「社員との雑談」をあげる。同氏はかつて、オフィス内を巡回して、社員のデスクに立ち寄り雑談をするのを日課としていたという。主なトピックは社員の家族の近況などだ。なにげない、他愛もない話かもしれないが、こういったふれあいこそが同僚間のつながりをつくり、企業文化を築くのだとオーエン氏は語る。

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石塚 しのぶ

ダイナ・サーチ、インク 代表

ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。

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