近年、業績や運営の面で企業の「綻び(ほころび)」が露見する時、その根っこにある問題として「企業文化」の歪が挙げられることが多い。しかし、その逆もまた然り。企業が苦境に直目した時、踏みとどまって這い上がることができるか否かは、どれだけ堅固な企業文化、言い換えればしっかりと確立された価値観(コア・バリュー)の共有があるかにかかっている。
成長企業が苦境に打ち克つ秘密は?
近年、業績や運営の面で企業の「綻び(ほころび)」が露見する時、その企業の文化の「歪(ひずみ)」が併せて語られることが多い。ましてやスキャンダルや不正などが明るみに出ると、即座にその根っこにある問題として、「企業文化」が精査されることが半ば常識のようになっている。
その逆もまた然りである。つまり、企業が苦境に立たされた時、踏みとどまって這い上がることができるか、あるいは下り坂を転げ落ちるかは、どれだけ堅固な企業文化や、言い換えればしっかりと確立された価値観(コア・バリュー)の共有があるかどうかにかかっている。
いつの世も、スタートアップが生き残り、事業的にも組織的にも成熟していくまでの道は険しい。急速に成長しているスタートアップであればなおさらだ。事業や組織の規模が大きくなっていく過程で、ぬかりや見落としや怠慢、あるいは誤算が生じてくるのは自然といえば自然なことなのだ。
そんな時、堅固な企業文化と、価値観の共有によって培われた結束の強い組織があれば苦境を乗り越えられる。反対に、そうでない組織は沈没してしまうだろう。
エアビーアンドビーの躍進
そんな「堅固な文化」をもつ企業の一例としてエアビーアンドビー(Airbnb)を考えてみた。
エアビーアンドビーといえば「空き部屋のマーケットプレイス」という事業カテゴリーのパイオニアであり、リーディング・カンパニーである。年商3,600億円(2018年推定)、評価額3兆5,000億円。2018年には「ユニコーン」には珍しく利益を計上したが、昨年はマーケティングをはじめ営業経費がかさみ、赤字に転落している。
個人宅、時には賃貸のアパートを「間貸し」するというビジネス・モデルのため、世界の各都市で様々な規制の問題に直面している。また、今年、2020年に株式上場を控え、成長ポテンシャルの膨大さをアピールするために、「空き部屋のマーケットプレイス」の原点から大きく飛躍し、ホテルなど従来型の宿泊施設へのリスティングの拡大や、個人が「ガイド」として登録し地元民ならではの稀有な体験を旅行者に提供するサービスや、非従来型の場所で開催される「プライベート・ライブ・イベント」のリスティング・サービスなど、周辺カテゴリーへのアグレッシブな事業・サービス拡張にも余念がない。
エアビーアンドビーほどの莫大な規模(従業員14,000人超、営業対象地域191カ国、営業拠点21カ国31箇所、利用者数1億5,000万人超)と事業の複雑さや競争環境の熾烈さを考慮すると、先に述べたような「綻び」や「歪」が出てきても当然と思われる。しかし、それでいてエアビーアンドビーという企業が安定性や一貫性を感じさせるのは、やはり、「企業文化」というファンダメンタルの強さに因るところが大きいのではないか。
企業文化
2018.03.01
2018.03.02
2018.03.07
2020.02.07
2020.02.28
2020.03.17
2020.05.29
2020.06.10
2020.06.23
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。