近年、業績や運営の面で企業の「綻び(ほころび)」が露見する時、その根っこにある問題として「企業文化」の歪が挙げられることが多い。しかし、その逆もまた然り。企業が苦境に直目した時、踏みとどまって這い上がることができるか否かは、どれだけ堅固な企業文化、言い換えればしっかりと確立された価値観(コア・バリュー)の共有があるかにかかっている。
そして、全世界で12,000人を超える社員に対しては、誰もが「居場所」を感じられる職場づくりに並々ならぬ力を注いでいることはいうまでもない。飛行機の管制塔をもじった「グラウンド・コントロール」という部門は、エアビーアンドビーの各支社や営業所に存在し、オフィス環境や社内コミュニケーション、報奨・表彰プログラムや社内イベントなど、社員のワークライフのすべての側面のお世話をする役割を果たしている。
また、年に一度、全世界から社員がサンフランシスコの本社に集い開催される「ワン・エアビーアンドビー」と称す社員カンファレンスがある。同イベントは数日にわたり、経営陣から短・中・長期的なビジョンと戦略の共有があったり、また、社員がそれに対してフィードバックを与える機会もある。社員同士があらゆるトピックについてナレッジやハウツーを提供し合うセミナーの時間や、社員が共にボランティア活動に勤しむオプションもある。普段は別々の場所で働いている社員たちが一堂に会し、仲間意識や所属意識を実感し、会社としての結束を固める絶好の機会となっている。
エアビーアンドビーは、入社以降の社員生活の中で「居場所」という精神が大切にされているだけではなく、「採用」においても極めて重要視されていることでも知られる。言い換えれば、入り口のところで、会社の「存在意義(コア・パーパス)」や「価値観(コア・バリュー)」に共感してくれる人材を集めることに細心の注意を払っているということだ。採用面接では、募集が行われている「職種」に必要とされる知識やスキルが問われるだけでなく、エアビーアンドビーの企業文化に対する「フィット(適性)」が問われる。そのために、その職種には何の関係もない人が面接にあたるのである(もちろん、職種に対する知識やスキルを評価するためにはまた別の面接が行われる)。入社初日からの一週間の「オンボーディング」でも、新しく会社に入ってきた社員は、コア・バリューをはじめ、エアビーアンドビーの社員であるということはどういうことか、を座学や体験を通して学んでいく。
強靭さの秘密はコア・パーパス、コア・バリューの共有
このように、設立から10年以上がたった今でも、エアビーアンドビーでは、「企業文化(コア・パーパス+コア・バリュー)」を中核に据えた経営が徹底されている。同社の事業のスケールや複雑を考えても、その未来は波乱に満ちたものになると予測されるが、もし、エアビーアンドビーがそのチャレンジを乗り越えていくことができるとすれば、その強靭さの根底にあるのはコア・パーパスとコア・バリューの共有を基盤とした「結束力」や「仲間意識」や「帰属意識」の強固さであると推察できるのである。
企業文化
2018.03.01
2018.03.02
2018.03.07
2020.02.07
2020.02.28
2020.03.17
2020.05.29
2020.06.10
2020.06.23
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。