4社に1社が消失する可能性がある過酷なサービス競争時代を生き抜くために、今までの延長線上から抜け出して、サービスの改革やイノベーションの実現に向けて動き出す企業が増えています。この危機感を成長へのチャンスにするために、サービスイノベーションにどう臨むべきなのでしょうか。
研究開発はサービス業には関係ない?
日本のサービス産業の研究開発費の比率は、わずか21%(製造業が79%)。一方でEUでは製造業とほぼ同額、米国では、サービス産業の研究開発費のほうが製造業よりもはるかに高いとの記述があります。
確かに、研究開発なしに、いきなりサービスイノベーションだと言われても無理があります。日本企業も、サービスの研究開発にもっと取り組むべきです。ここでは、小手先のメニュー開発や業態開発ではなく、サービスの価値そのものを高めるようなチャレンジが必要だと思います。ただし、研究開発と言っても、製造業は実験室にこもって密かにできますが、サービスはそうはいきません。サービスはお客様と一緒につくるものなので、研究開発は顧客接点での取り組みが欠かせないのです。だからこそ、サービスイノベーションに取り組むのであれば、顧客接点でサービスイノベーションを実験するという発想が必要だと言えます。
人材育成もやっていないに等しい
日本企業の人材育成投資(対GDP比)においては、欧米の1/10~1/20と極めて低い水準にあるとのデータが掲載されています。
OJTという言葉を都合よく解釈して、「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」というスタンスで、個人や現場任せな人材育成に頼り切っている日本のサービス業の現状が露呈しているように思います。「サービスの人材育成は若手向けでしょ」というレッテルが貼られていることもしばしばです。若手の早期育成も大切ですが、さらに重要なのは、サービス経営人材とベテラン人材の育成と意識改革です。サービスの経営人材もベテラン人材も、個人の価値観と経験に頼っている部分が多く、サービスの本質を理解したり、成長を加速する機会に恵まれていません。事業推進の中心人物こそ、サービスの本質を学び、ビジネスに活かすべきだと思います。
サービス事業は「成長経営」から「生産性経営」へ
さいごに、サービス経営の基本スタンスを、「成長経営」から「生産性経営」へシフトせよと提言されています。
生産性経営とは、労働者一人当りの付加価値を、持続的に向上させることに重きを置いた経営のことだと言えます。これまでの成長経営では、利益や規模が経営の価値観の軸になっていたと思います。このとき重視されがちなのが、少し言葉は悪いですが、「顧客に売り付ける力」「顧客を囲い込む力」という印象です。いかに市場を掌握して規模と収益を生み出すかが、事業戦略の中心にある企業は今でも多いと思います。
一方で、市場の需要も労働力も縮小するこれからの時代において、労働者一人当たりの付加価値の向上を重視する生産性経営では、何が変わるのでしょうか。それは、「顧客に積極的に選ばれ続ける力」が今まで以上に重要になります。加えて人手不足で優秀な人材の獲得競争が加速するため、「従業員からも、積極的に選ばれ続ける力」も欠かせません。条件面で従業員を囲い込んでも、限界があります。顧客からも、従業員からも、積極的に選ばれ続ける力こそが、サービス事業の最大の強さになる。サービス競争の新時代を勝ち抜くために、サービス経営に科学を活かしたいものです。
サービスサイエンス・CS向上・サービス改革・品質向上
2011.09.21
2011.06.12
2011.04.29
2011.04.23
2016.06.13
2017.01.24
2019.08.07
2019.08.21
2023.05.19
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新