「サービスの定義」を理解することで浮かび上がってきた「事前期待」の重要性。とはいえ、「事前期待に応えよう」と言われても、きれいごとにしか聞こえないものです。「事前期待」とは一体どんなものなのかをロジカルに理解することで、事前期待を掴み、それに応えるための努力のポイントを明らかにしたいと思います。
これまでの記事で、ワンランク上のサービスを実現するためには、「事前期待」の中でも「事前期待の持ち方」の4つの種類に着目する必要があることが分かりました。そこで前回は、1つ目の「共通的な事前期待」と2つ目の「個別的な事前期待」に着目をしました。そこで今回は残る2つの事前期待に応えるための努力のポイントを明らかにしたいと思います。
状況によって変化する事前期待にどう応えるか
事前期待の持ち方の3つ目は「状況で変化する事前期待」です。例えば、私が行きつけのレストランでいつも初めからワインを飲む趣味があるとします。そこで少し温かくなってきた季節にお店に入ったら、顔見知りのマスターが私の顔色を見て「松井さん、今日は生(ビール)でしょ!」と言って、私の気持ちにドンピシャだとホスピタリティーを感じてしまいます。このように、お客様の事前期待は状況によって変化するものなのです。
状況で変化する事前期待に応えるために、前回登場した顧客データベースをいくら整備しても効果的ではありません。状況で変化する事前期待は「いつもと違う事前期待」なので、データベースで管理することはできないのです。そこで努力すべきは、「共感性」や「観察の視点」を身に着ける教育やトレーニングを通して、お客様の事前期待の変化に気付ける人材を育成することです。
思ってもみない感動サービスをどう作るか
最後に「潜在的な事前期待」。思ってもみないサービスを受けて感動した、という経験の元になる事前期待です。例えば、書店でしばらく立ち読みをしている妊婦の方にそっと椅子をお出ししたら感激して頂けた、というものです。
この、お客様も意識していない潜在的な事前期待に応えることは容易ではありません。いくら教育やトレーニングを積んでも限界があります。そこで効果的なのが「成功体験の共有」です。現場のスタッフは、「偶然かもしれないけれど、こんなことをしたらお客様に感激して頂けた!」という成功体験を、一人1つは持っているはずです。その情報を組織で共有しておくと、別のスタッフが同じような場面に遭遇した際に、感動サービスを再現できる可能性が高まるのです。この事例共有を、サービスサイエンスの様なロジカルな視点で分析してから共有すると、さらに再現性は高まります。
事前期待の構造と勘所は分かったけれど、、、
これまで見てきたように、「事前期待」とひとことで言っても、その構造は案外複雑です。しかし、この構造と努力のポイントを理解しているかどうかが、サービス成功の分かれ道になります。サービスでお客様から高い評価を頂くためには、事前期待の構成要素のうち、「事前期待の持ち方」に着目することが大切で、その中でも「共通的な事前期待」にきっちり応えるだけではなく、「個別的な事前期待」や「状況で変化する事前期待」、「潜在的な事前期待」に応えることが重要だということが分かりました。また、事前期待の持ち方のそれぞれの種類によって、努力すべきポイントが異なることも明らかになりました。
つまりは「お客様ごとの事前期待を掴んでそれに応えましょう」ということなのですが、そうはいっても、明日から具体的に何をしたら良いか、まだまだピンとこない。そんな方も多いのではないでしょうか。そこで次回は、これまでに触れてきた「事前期待」を中心に据えてサービスを変えていくための、サービスサイエンスの方法論をご紹介します。
service scientist's journal(サービスサイエンティストジャーナル)
2015.07.16
2015.07.23
2015.08.06
2015.08.20
2015.09.03
2015.09.17
2015.10.01
2015.10.15
2015.11.26
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新