(緊急寄稿)日本相撲協会に見る日本的組織の「危機的」危機管理能力

2018.04.06

組織・人材

(緊急寄稿)日本相撲協会に見る日本的組織の「危機的」危機管理能力

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

大相撲舞鶴市巡業において土俵上で倒れた市長を介抱する看護職の女性に対し、女性は土俵から降りるようアナウンスしたことが批判されています。暴力問題に次いで何やら泣き面にハチ状態の日本相撲協会ですが、協会にとどまらない日本的組織の危機管理能力をそのまま表した事態だといえます。

1.非常事態は「あってはならない」という精神主義
大企業や官公庁といった巨大組織、それも日本的な伝統を持つ組織において、いまだに跋扈しているのが、ミスやトラブルといった非常事態が「あってはならない」という危機管理です。困った事態が起きないようにすることはもちろん大切ですが、危機管理と精神論がごっちゃになっているのです。

東日本大震災など自然災害への備えとして、こうした大組織では避難訓練なども定期的に行われています。しかし何のための避難訓練なのか、単なる義務感と惰性でしか行われていないというのが実情ではないでしょうか。組織に危機対応方針が無いのです。

人命含め身体を傷つけるような事態があってはならないのは当然です。しかしあってはならなくとも起きるのが事故であり犯罪です。それらを100%防ぐことなど理論的にあり得ません。そんなことが本当に可能なのであれば、それこそ警察も消防も軍隊も不要になります。「あってはならないこと」は精神的目標としては良いにしても、危機管理においては全く意味のないものです。

2.「土俵から降りろ」に見る危機対応部署の対応能力
今回の事件では、格闘技である大相撲という競技の試合において、事故が発生することを予見していないとしか思えない危機対応の無さと、実際に起きてしまった事故への対応能力の無さが白日の下のさらされたといえます。総合格闘技でもボクシングでも必ずリングドクターがおり、試合中のケガなどドクターストップ含め対応します。しかし今回はそうした土俵ドクターはいなかったようで、ここでも決定的な問題となります。

交通事故に匹敵するほどの強烈な衝撃といわれる力士のぶつかり合いで、ケガを想定しないこと自体が考えられません。仮にたまたま事故時に不在だとしても、ドクターがいない時に事故が起きることは当然想定されなければならない危機対応です。客同士のトラブルや事故は興業中、いついかなる時でも発生し得るのです。

そしてその上で、何らかの事情でドクターが不在となった場合、当然その場で当事者が対応する必要がある訳で、今回行事の方たちが対応しつつも、観客の一部から「女性を土俵に上げて良いのか」というばかげたヤジに動揺してしまったとのこと。時機を理解できない規則一辺倒のばか者はどこにもいるものですが、そんなヤジごときを聞いてしまう危機対応能力の無さこそが最大の問題です。

3.危機対応部署を総点検せよ
多くの組織で危機対応は表面的に重視されていても、実際にその意味や行動基準などが理解されておらず、組織全体での共有もないのが一般的でしょう。事故が起こった時に「想定外だった」という言い訳が通ってしまう土壌にも問題あるのですが。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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